趣味。昔は道楽ともいった。「その道」と考えるのがいかにも日本。決まった結末があるわけではない。寄り道もするだろうから、歩みは人それぞれ。中には、そのために破産、生活破綻するかも知れない。そうなると「道落」。楽しむか、落ちるかで、人生は異なるが、それもまた一興。ダメだったら出直す。その位、飄々としていなければならない。そう、趣味人は、洒落者でもあるのだ。
当然、コレクションもする。自分専用の道具などにも凝る。が、それを押し付けることはしないが、見てもらいたいし、評価してもらいたい、ちょっといちびるなところもある。
■いわゆる三大趣味

ワインの瓶。これが美しい。
趣味の中でも贅沢とか、三大とか言われるものがある。「機械腕時計」「ワイン」「オーディオ」の3つだ。なぜ、この3つがと問われると、お金がかかるからだ。いずれも、数千万円は吹っ飛ぶと思ってくれていい。
ワイン、オーディオのハードルは最近の技術により少々下がっている。ワインは地下貯蔵庫(ワイン蔵)の代わりに、電動のワインセラーで代用が利くし、オーディオはオーディオルームではなく、どこでも聴くヘッドホンが当たり前になったからだ。ま、ヘッドホンとスピーカーでは音が全くと言うほど異なるが、今の世、オーディオルームまでのこだわりを持つ人は少ない。

当然ワインセラーが使われている。
趣味は昂じると、同好の士を集めて、意見交換したくなる。限りがない分、自分はどんなレベルなのかと言う確認も含む。
■知人の知人のワインバー

ワインバー moRed 昼の様子。
1Fでパンの販売。2Fではワインが楽しめる。

ワインバーなので適度に狭いが、窓が大きく開放感がある。
前の堀江公園が雅を添える。

夜のmoRed。
古い洋館のような怪しさがいい。

黄昏時のワインバー。
往来はまばら。ガヤガヤしないのがよい。
知人の知人が、ワインバーを始めると言う。場所は、大阪市西区南堀江。大阪でも指折りのお洒落なエリアで、東京でいうと自由が丘や中目黒に近い雰囲気。落ち着いたエリアだ。ここに店を構えたのが、趣味はワインと言い切る(株)A.st(アスト)代表取締役・赤穂祐也氏。

(株)A.st(アスト)代表取締役・赤穂祐也氏。
店の名前は、「moRed(モレド)」。moはフランス語の「私」ではなく、英語のmoreから取り、「より」の意。「Red」は元気な色代表。「いっそう赤く」の意だが、個人的には「我ら、赤ワイン党」をかけているのではないかと思う。ちなみに赤ワインは、英語でRed Wineだ。
店は、1Fにパン屋、2Fにワインバー。まず驚くのはその間の天井高さ。4m近い。このため、ワインバーは天井の低い閉所となる。座ると、前の堀江公園を見下ろす位置になり、気分がとてもよい。知る人ぞ知る「大人の隠れ家」という感じだ。
1Fで購入したパンは大阪で人気のクロワッサン専門店「and」のもの。お持ち帰りしてもいいし、2Fでワインに合わせてもよい。夜はパン屋は閉じ、その厨房で料理を作るだけになるが、ワインはいつでも飲める。
料理は美味しいが、がっつりお腹を膨らせるものではなく、ワインのお供という感じ。
ここで、オーナー自慢のコレクションを楽しむわけだ。さて問題はコレクション。
当日は、メニューにあるワインを4種楽しませてもらったが、それぞれご紹介したい。
■第1のグラス 『moRed Sparkling001』のスパークリング・ワイン
コレクション245
価格:グラス2,600円(税込2,860円)
生産者:ルイ・ロデレール
生産地:フランス/シャンパーニュ
シャンパンは、ワインと違い、ほとんどがブレンデッド。ブレンドしている理由は大きく2つ。1つは新しい味を創造すること。もう1つは、不作の年でも味を変えないためだ。欧州では、2つめの意味でブレンドすることも多く、ネスカフェなどは特に有名。1つの農園が不作でも、ブレンドによりそれを帳消しにする。そうでないと、世界に通用しない。ルイ・ロデレールは、家族経営のシャンパーニュ・メゾン。多分No.1だ。が、一番すごいのは250haの葡萄畑を持っていること。そして半分はオーガニック栽培であること。
多くの人が誤った認識を持つことが多いが、パリの東に位置するシャンパーニュは、葡萄の北限。その分、ちょっとしたことで葡萄はダメになりやすい。しかも、有機栽培というのは、人間で言うとサプリもなし、食事だけで生活していますと言う状態。大変なことなのだ。真面目=自家製が全ての正解ではないが、全部自分のところというのは、分かりやすいし、信用しやすい。
同メゾンのシャンパンは、イギリスの専門誌『ドリンクス・インターナショナル』の「世界で最も称賛されるシャンパーニュ・ブランド2025」にて、6年連続の第1位を受賞!
ちなみにコレクションに振られている番号:245は245回目の収穫(2020年)を意味し、それがブレンドのベースにもなる。
堂々たるシャンパンが、1杯2600円。ある意味格安。
■セカンド・グラスは白 『moRed White 001』のワイン
ゲヴュルツトラミネール価格:グラス1,300円(税込1,430円)
生産者:トリンバック
生産地:フランス/アルザス
ゲヴュルツトラミネールは葡萄の名前。白ワインで使われる葡萄、トラミナーの当然変異種と言われている。アルザスの土壌に最もよく合うと言われる葡萄だが、名前の半分はドイツ語。ゲヴュルツは、ドイツ語でスパイスの意。
味より香りを楽しみたいグラス。
■金を持ったらしたいこと 『moRed Red001』のワイン
ディレクターズ・カット・ドライ・クリーク・ヴァレー・ジンファンデル価格:グラス1,600円(税込1,760円)
生産者:フランシス・フォード・コッポラ・ワイナリー
生産地:アメリカ/カリフォルニア
「地獄の黙示録」などで有名なフランシス・コッポラ監督のワイナリーで作られたもの。味もさることながら、ラベルが秀逸。映画フィルムのノリである。コレクションの中では一番一般受けする視覚的な「映え」を持つ。
ちなみに、昔の成功者は引退して牧場を持つと言われたが、今はワイナリーらしい。一度、ワインの試飲会で、元サッカー日本代表監督のフィリップ・トルシエ氏から、自分のワイナリーで作った。味わってみてくださいと言われたことがある。ミルクからワインへ。いろいろと時代は変わる。
あと1つ付く加えておく。ワイン界では、1976年に「パリスの審判」と呼ばれる事件が、パリで起きた。アメリカ建国200周年の記念に、アメリカVSフランスの正式なワイン試飲会が行われ、アメリカが勝ってしまった事件だ。それまで、イマイチと言っていたアメリカワインに、ワイン世界一だったフランスが敗れたのだ。世界一を譲りたくないフランスは何度かリベンジマッチを行うが、全部アメリカの勝利。
ワインが変わった瞬間とも言われている。
が、だからアメリカのワインしか飲まないとかいうのは、了見の狭い、浅はかな考え。アメリカ、フランスだけでなく、イタリア、スペイン他、ワインはいろいろな国で作られている。楽しめばよい。
■あれが噂の・・・ 『moRed Red002』のワイン
ジュヴレ・シャンベルタン価格:ボトル23,000円(税込25,300円)
生産者:ルイ・ラトゥール
生産地:フランス/ブルゴーニュ
※不定期でグラスでも提供(価格抑える為液量が気持ち少な目)その際は、『Sparkling001』と同価格のグラス2,600円(税込2,860円)
ナポレオンが愛したことでも知られる、フランス・ワインの王様。
飲めるとは思わなかった一杯。有名すぎて飲めるとは思えなかった一杯。
ちょっとした雑学を併記したが、どれもこれも、逸品。ちょっと古い話だが、刑事コロンボの「別れのワイン」で、コロンボが並の酒と上等の酒の見分け方を店主に聞くシーンがある。
店主は「それは、値段だね」。テレビではここでカットされているが、実際はこの後に、「高い酒が上等とは限らないが、上等な酒は高い。」という言葉が続く。
moRed通常より、やや高い(六本木、銀座よりは安い!)が、その価値から考えると随分リーズナブルといえる価格だ。
■言葉で味は語れない
音、臭い、味、触覚。これに視覚を加えると、人間の五感となる。
が、人間はほとんど視覚から情報を取る。このため人間が使う言葉も、ほとんどが視覚を言語化したもの。昔、女の子が何をみても「可愛い」というのバカにした人を知っているが、その人だって味の表現はプアだった。「美味しい、不味い」だけでは、女子大生の「可愛い、可愛くない」とそう差があるものではない。まぁ、煉󠄁獄杏寿郎ほど、力をこめて叫ぶと違ってくるが・・・。
私が書いた雑学の部分もそうだが、味はほとんど書いていない。視覚でないため、語彙が少なすぎるのだ。
ところが、物書きよりデザイナー、芸術家は違う。言葉で言うより、絵画、写真、音楽で語る方が得意な人たち。彼らは言葉でも話すが、それより画や音で話す方が得意なのだ。そして、それは伝わってくる。
で、moRedが始めたのが、画でそのワインの特徴を伝えられないかということ。メニューは創作写真と最低限の文字情報だけで構成。それから選ぶわけだ。
創作写真は、著名なカメラマンRina氏のもので、写真は店内にも飾られる。
こんなことができるのは、moRedが店としてではなく、ワインを愛する同好の士の溜まり場を目指しているからこそ。大阪の人はもちろん、京都、神戸、東京の方もぜひどうぞ。特に均一のオモテナシが当たり前になっている東京のワインバーより、余程面白かったりする。
行くたびに新しい発見や刺激がある大阪に、また一つ行きたいと思う新しい名所が一つ増えた。

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