【SDG’s】再生樹脂使用時の基礎知識
SDG’sに乗っ取った動きも本格的になり、エレクトロラックス スティック型掃除機『Well Q6(WQ61-1BGR)』、日立 スティック型掃除機『PV-BH900SK』などのグリーンモデルが出てきました。日立 スティック型掃除機『PV-BH900SK』を例に取り、再生樹脂使用の強みと弱みをレポートします。
■樹脂の種類
「5大エンプラ」という言葉があります。エンプラというのは、エンジニアリングプラスチックのことで、その中で良く使われるもの5つを5大エンプラと言います。人により、何を5大にするのかは、意見が喰い違うことも多いのですが、多くの場合、●PA(ポリアミド)(デュポン社の商標ではナイロン。こちらの商標の方が圧倒的に通りがいい)、●PC(ポリカーボネート)、●ポリエステル(PBT, PET)、●POM(ポリアセタール)、●変性PPE(変性ポリフェニレンエーテル)。ちょっと難しい様ですが、ナイロンは化学繊維の代表例ですし、ポリカーボネートはCD、DVD、BDなど光ディスクでお馴染みですし、ポリエステルはペットボトルの材料です。
ここで言いたいのは、樹脂にもいろいろな種類があり、適所適材。いろいろな種類があるということです。同じ樹脂に属するのですが、個別である、特にその性能は、相いれません。
■掃除機に使われる再生樹脂は?
掃除機に使われている再生樹脂は、PP、PC、ABSの3種類です。
それぞれ、次のような特性を持ちます。
●PP(ポリプロピレン)
汎用性熱可塑性樹脂の一つです。比重が0.9と軽く、耐薬品性・耐摩耗性・耐衝撃性・軽量性に優れており、軽くて、丈夫で、傷が付きにくいという樹脂に求められる性質を持ちます。
また、成形し易いのも大きな特徴です。成形は射出成形・押出成形・ブロー成形・真空成形など、汎用的な成形法ならほぼ使えます。ちなみに3Dプリンターの材料でもあります。しかし、一方反りが出やすくもあり、設計と成形技術は必要な材料でもあります。
数々の特徴を持ちますが、その一方、耐候性は強くなく、紫外線に弱いです。また接着性もよくないです。当然、印刷適性も悪いです。
●PC(ポリカーボネート)
汎用性熱可塑性樹脂の一つです。透明性・耐衝撃性・耐熱性・難燃性・寸法安定性などが良いです。透明性、寸法安定性などで、光ディスクの基盤として用いられてもいます。また旅客機の客室窓にも採用されています。耐衝撃性は「象が踏んでも壊れない」というキャッチコピーで有名なアーム筆入れに採用されたことでもお墨付き。ちなみに1967年のCM放送時、「誇大宣伝ではないか」という指摘が国会議員から上がり、その議員に対して実物を100個持ち込んで金槌で叩かせ、丈夫さを認めてもらったというそれほどのシロモノ。ただし、表面の擦過性は強くありません。CDが傷つき、読み取りができなくなるのは、みなさんも経験済みだと思います。
●ABS(エービーエス)
合成樹脂の一種で、アクリロニトリル (Acrylonitrile)、ブタジエン (Butadiene)、スチレン (Styrene)共重合合成樹脂の総称。頭文字をとりABS樹脂と呼ばれています。
剛性、硬度、加工性、耐衝撃性、曲げ疲労性など機械的特性のバランスに優れます。一般なバランスで、PP、PCとの比較すると、重く粘りがあることが特徴となる。
また3つの樹脂バランスを変えることにより、いろいろな特徴を強く出せるのが大きな魅力となります。
■再生樹脂を使うメリット
資源の無駄遣いを減らすことです。ゴミの低減を含め、未来に対し大いに意味があります。
樹脂は、基本自然分解しませんので、何千年、何万年、何億年も同じ状態を保ちます。擦れて、微細化するだけです。中でも5mm以下の微細なマイクロプラスチックは、世界的に問題視されています。
特に問題は海。微細なため回収が難しく、海流に乗って世界中の海に広がってしまいます。このため、海洋生物がプラスチックを餌と間違えて食べ、死に至るケースが多くでています。また、プラスチックに含まれる有害な化学物質が、海洋生物の生存を脅かすことも問題です。
ここでは簡単に、「樹脂」と書いておりますが、樹脂の便利な特徴に「練り込み」があります。その樹脂に足りない機能を持たせるためです。例えば「Ag」を練り込むと抗菌性の性質を持ちます。樹脂自体は食べられませんので、そのものだけなら菌の繁殖はあり得ません。が、水が付着して、それが蒸発しなければ、どうでしょうか? 菌は繁殖します。樹脂は人が触る部分に多く使われます。このため、手垢(皮膚)など、菌にとってのご馳走がごっちゃり付きます。
また、PBDE(ポリ臭化ジフェニルエーテル)などの難燃剤や紫外線吸収剤などプラスチックに含まれる添加剤が海水中に溶け出したりします。逆に、PCB(ポリ塩化ビフェニル)など海洋中の有害な化学物質をプラスチックが吸着することもあります。いずれにせよ、汚染された水、マイクロプラスチックを魚を代表とする海洋生物が食べると、被害は人間にも及びます。
再生樹脂化させるということは、これらからの脱却となります。
■デメリット
一方再生樹脂には、細々したデメリットが多くあります。
●強度不足 ヴァージン樹脂に比べ、再生樹脂は強度的に劣るとされます。特に他の樹脂種は不純物になるため、強度を確保するためには、その樹脂だけを使った廃材を集める必要があります。これが実にやっかいです。面倒。ちなみに、印刷インクも不純物です。
●リサイクルルートの確保が十分ではない 日本では、現状、リサイクルルートが確保されていません。あるのはペットボトルだけです。日本の場合、このペットボトルの回収率はすごく、93%まで上がっています。
しかしそれでもペットボトルに使われている、本体(PET)、キャップ(PP)、ラベル(PS)をバラバラに回収すつという動きは、まだ十分とは言えません。今、条令でこの3つはバラして出す様にと定められているのが、その証拠です。十分なら、条例で定めたりしません
しかし、他のモノはどうでしょうか? 大型家電は業者引き取りですから、リサイクル工場へ運ばれ樹脂別に分別されます。タチが悪いのは小型家電。こちらは正式な回収ルートはあるものの多くの場合、行政施設内。燃えないゴミとして出す人も多いのではないでしょうか? 日本の場合、サーマルリサイクルを認めておりますので、これも数値的には回収したとされますが、海外では認められません。
そう言う意味では、日本の場合、ペットボトル以外の樹脂リサイクルルートが確保されているとは言えません。
●需要に供給が追いつかず、ヴァージンより高値になっている。 ヴァージン樹脂は、石油から作り上げます。そこには化学工学的なロス分(正直かなりのロスがあります)以外のロスはありませんし、設備も揃っています。
一方、リサイクル工場は、量が少ない上、持ち込まれる状態で対応が異なります。人件費がすごくかかります。その上、現在材料となる廃材を集めることからして、人手がかかります。その上、SDG’sに則ると言う考えに乗らないメーカーはありませんので、需要が供給を上回ります。
ということで、再生樹脂は、ヴァージンより高い場合が多いのです。性能がよくなく、おまけに高い。当然、メーカーも二の足を踏みます。
■再生樹脂使用例
では、メーカーはどう使いこなしているのでしょうか? 日立の新型スティック型掃除機「PV-BH900SK」を例に取り見てみましょう。
●再生樹脂の割合で、強度不足を補う
再生プラスチックを使用するメーカーは、押し並べて全体重量40%と標榜します。それ以上混ぜると強度が取れなくなる可能性があると言うわけです。100%には程遠い数字ですが、今後比率は上がっていくと思います。
●不純物は色が濁る。なら「黒」で。 再生樹脂のほとんどは、黒色に着色されます。理由は、ヴァージン樹脂が透明でも、再生樹脂は含まれる不純物によっては濁りを持つことがあるからです。
「PV-BH900SK」では「PV-BH900K」で「ライトゴールド」のパーツが「ブラック」へ変更されています。
●樹脂の特性を考え、使用 前述の樹脂種で性能が異なることに触れましたが、見た目も、手触りも違います。今回、日立はメインパーツを軽くて丈夫なPPで作りました。しかし、PPはちょっと見栄えが良くない、光沢が少なく、鈍く光るにとどまります。このため、外装パーツはPCを採用。この光沢差を利用して、黒一色の中に面白みを付けています。
●再々樹脂化を考慮し、ブランドは「ホットスタンプ」から「刻印」へ
樹脂を再施する時は、できる限り、不純物がないのが望ましい。このため「PV-BH900SK」は、PV-BH900K」で使われているホットスタンプ(別名「箔押」( ハクオシ) 。箔シートを加熱した凸版でプレスする事で、箔の素材に吸着させる印刷法。加飾シート(箔)の表面には、粘着材がひかれており、加熱した凸版などが接触する事で製品に転写される)から、刻印に変えました。箔という不純物を除去することにより、再度の再生を考慮した結果です。
●販売はECサイトのみ
「PV-BH900SK」の販売はECサイトのみです。これは数量コントロールのためです。今、半導体の争奪戦は有名ですが、再生樹脂も同様です。
●日立 オンラインショップ https://store.kadenfan.hitachi.co.jp/store/c/c2011/
■最後に
江戸時代、鎖国でなおかつ、太陽エネルギーだけで暮らしてきた日本は、徹底したリユース、リサイクルの社会でした。かまどの灰一つでも、それを専門に買いに来る人がいて、彼の生活は、それで成り立っていました。普通の人(町人)は無税で、そばは16文と決められていた時代ですから生活できたのかもしれませんが、リサイクルが成り立っていたのは、それほど徹底していたからだと言えます。
一方、現代日本では、そんなところはみんな国が民間に投げています。汗をかいてではなく、投資により儲けるのがスマートとされている時代ですから、なかなか3K職に手を出そうとしません。そのため、ペットボトルという稀有な例を作ったものの、日本はリサイクル後進国。リサイクル先進国の北欧と肩を並べるどころではありません。個人個人のモラルはまだ高いのですが、如何せん受身な国民性なので、誰かが率先して行わないと拡がらないのです。
その上、再生樹脂を使いこなすには、上記のようにいろいろな工夫も必要です。
しかし、人類が、この地球で文化的な生活を送りながら、他の生き物と共存する上では避けて通れない道と思います。
ちなみに、ヴァージン樹脂の場合もロスは発生します。何十万トンというオーダーで、す。今後、折にふれ、このような実学は勉強すべきかなと思います。頭の片隅にひっかかっていると、アイディアも生まれます。この再生樹脂の情報はそんな契機になればと思います。
商品のより詳しい情報は、以下のURLでご確認ください。
https://kadenfan.hitachi.co.jp/clean/lineup/pv-bh900sk/
*当モデルは、今回レポートの前のモデルです。
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2022年8月5日
タグ: PV-BH900SK, SDGs, Well Q6, WQ61-1BGR, エレクトロラックス, グリーンモデル, スティック型掃除機, パワーブーストサイクロン, ホームケア, 再生樹脂, 日立