レポート

家電メーカーの作ったマスク。
アイリスオーヤマ のマスクの優位性を検証する。(後編)


アイリスオーヤマのマスクレポート 後編です。
 
前編はこちら。
https://www.seikatsukaden.com/?p=29805#more-29805
 
◾️ナノエアーマスク

ナノエアーマスク。
光沢のあるアルミパックで店頭での目立ちも上々。


長時間装着しているとマスクは蒸れるという問題あります。それに対する1つの回答がアイリスオーヤマが国内の新ラインで生産している「ナノエアーマスク」です。

通常のマスクと違うのは「特殊フィルター」「口元のスペース」「耳紐」の3点です。

不織布フィルターが、ウイルスなどを捕獲する時、2つのトラップが使われています。1つは「網の目の大きさ」による物理的なトラップ。あと1つは「静電」による電気的なトラップです。このうち、蒸れに関わりがあるのは網目の大きさ、物理的なトラップです。

通常、不織布フィルターは、一種類の繊維で作ります。例えるなら太い丸太のみで、ダムを作るようなもの。ウイルストラップのためには、穴を小さくしなければなりません。となると、かなり厚みを持たせる必要があります。

では、繊維を2種類にするととどうか。太い繊維の間に、細い繊維が潜り込みますので、薄くてもトラップできる網目を作ることができます。薄いということは、水蒸気などは逃げやすいことを意味します。つまりウイルスなどのトラップ効果は同じながら、水分は逃げやすいという、今までのフィルターではできなかったことができるようになるわけです。

下からスチームを当てたときの、スチームの抜け具合。
左)ナノエアーマスク、右)通常品。


 
これを実現させるために、アイリスオーヤマが採用したのは「エレクトロスピニング製法」。技術発案は古いのですが、近年ナノレベルのフィルターの製造技術として注目されている製法です。

ただ、一番のポイントは、アイリスオーヤマが日本で生産するときに「不織布も自社生産」に踏み切ったことです。自社生産はコスト的には不利な面もありますが、性能を上げるときなどはありがたいことが多い。根底から見直し、自由度を広げることも可能だからです。

2つめの「口元スペース」では「3Dワイヤー」と呼ばれる2つめのワイヤーが追加されています。マスク中央のこのワイヤーで口元にスペースを作ることができます。息を吸うたびに張り付く感じはなくなりますし、空気通りもいいので、かなり楽です。

口のスペースを確保するために、中央部にワイヤーが入れてある。
加えて、中央の切れ込みも、当たりを柔らかくする効果がある。


また、女性にとっても、口元に余裕ができ、唇にマスクが触れないですむのは、いい感じではないかと思います。女性担当からは「ルージュもはげない」と言うメッセージをいただきました。

そして最後の工夫は、長時間着用時に必ず出てく問題、「耳への負担」です。この耳かけ、合わないと、ひどく気になります。特に1点に当たっている場合は悲惨。耳のその部分だけが擦れてしまいヒリヒリ、情けなくなることさえあります。また耳は後ろから前への力には弱いのです。これから寒くなると、アカギレの可能性もあります。耳かけは、重要な問題なのです。

これに対しアイリスオーヤマが出した解答は、「幅があるグニャリとした紐」です。この紐、実は包帯と同様の考えで作られています。包帯はご存知の通り傷口の上に巻き付け、傷口を防御します。しかし、過度な力がかかると傷口を圧迫することになりますので、痛くなります。こうしたことが起こりにくいように、包帯は「圧力分散」するように編まれています。

今回アイリスオーヤマは、その編み方を耳掛けに用いました。この耳掛け、使うときはとても良いのですが、製造時は大変。グニャっとしたコシのないものですからハンドリングしにくいのです。こちらも今回、国産化のための新ラインならではの対応となります。

新型マスク「ナノエアー」は、国産だからこそできたマスクとも言えます。

 
◾️シャープとのビジネスプラン、アイリスオーヤマのビジネスプラン
シャープのマスクは、メディアで大きな話題を呼び、「日本製なので品質が良い」と評判が立ちました。ネット販売では、約100倍の競争率。すごい人気です。

しかし不安要素もあります。それは、販売ルートと商品の差別化です。

今のシャープ人気は、日本の有名会社が国内生産していることに由来します。
が、それだけでは、ビジネスは継続できません。というのは、なぜ日本メーカーが中国で生産する理由を考えるとお分かりいただけると思います。「必要コスト」と「必要品質」と「必要量」のためです。このため、グローバル経済下、多くの製品が海外工場で生産される様になりました。

そのために、製造技術の一部は海外に流出したわけですが、グローバルの場合、地球=一国という見方ですから、国防のように「秘密を外に出さないよう、全て自国で」というのと考えが異なります。

好調のシャープマスクですが、「国産マスクだから」と言うことで、いつまで支持を受け続けられるのでしょうか? これは大きな問題です。シャープは液晶テレビ事業では、亀山に大工場を作り、無人化を進めることにより海外との人件費差を埋め、勝つビジネスプランを立てましたが、上手く行きませんでした。それどころか、今では海外メーカーの傘下です。今回のマスクビジネスはメインビジネスとではありませんが、同じ轍を踏まないことはできるのでしょうか?

シャープが生産しているのは、「普通の不織布マスク」です。性能は、BFE(細菌飛沫ろ過効率)、VFE(ウイルス飛沫ろ過効率)、PFE(微粒子ろ過効率)、などをクリアしていますが、「日本メーカーの不織布マスクとしては普通」です。あくまでもシャープマスクの魅力は、「日本製」であることにつきます。

逆に、不安要素は、フィルターなどを外部調達しておりコストダウンしにくいこと。パッケージラインが単一、50枚箱入りしかないことです。

箱の中には、25枚入りパックが2つ。
残念ながら個装パックはない。


パッケージは購買上重要なポイントで、いろいろなパッケージができないと、販売ルートが限られます。また新機能を盛り込もうとしても、フィルターなど外部調達しているものは、数量を保証できないと新開発してはもらえません(新機能と数量のやり取りは、iPhoneなどで御馴染みのお話ですね)。

シャープは、クリーンルームがあり、政府の補助金があり、導入時間、投資のハードルは低かったのは事実です。そして1ヶ月の導入を鮮やかに成し遂げました。見事と言うしかありません。
しかし、そこからは未知の領域。問題は販売、そして売れ続けるための商品差別化。シャープがマスク事業で成功するために、必要な条件です。そうでなければ、ひらすらコストダウンするしかありません。

初夏、シャープは生産量を上げています。一つは、期待されている需要を早期に満たすためですが、もう一つ、海外ともある程度、コストでも対応できるようにしているのかもしれません。

 
逆に、シャープの3カ月遅れで、国内生産を始めたアイリスオーヤマ。こちらは、クリーンルームの新設、ラインの新設、原材料の国産化。より拡大するため、コストダウンの要素も取り入れています。確かに投資額は大きいですが、アイリスオーヤマはホームセンターと言う強いルートを持っています。また、以前からマスクを手掛けていますので、ドラッグストアほかへも拡張しています。6月、近所のローソンでも、中国製ですがアイリスオーヤマのマスク扱っていました。

コンビニは一店舗では、ホームセンター、ドラッグストアの売り上げに及びませんが、基本単価は下がりません。逆に、コンビニサイドからすると「安定供給がマスト条件」。コンビニでも見かける様になったのは、「国産化による安定供給」が認められたからだと思います。またアイリスオーヤマからは、新規顧客先はまだまだあると聞いています。今後、数量、シェア共に拡大もしそうです。

 
◾️今後、マスクは、伸びるのか?
今、メディアは、布マスクの方が夏には過ごしやすいこと、また参入メーカーが多いこと、デザインが多彩なことで、メディアの方も、布マスクの特集をいろいろと特集を組んでいます。

しかし、何度も書きますが、新規参入メーカーの多くはフィルターなしの布マスク。過ごしやすい分だけ、防御機能が弱いです(布マスクにも、しっかりしたフィルターをもち、BFE、VFEなどをクリアしているものもあります)。

政府は緊急措置をしてフィルターなしのアベノマスクを配布しましたが、それは工業生産品のフィルター付きの不織布マスク、布マスクが市場から姿を消したためです。

しかし本来なら「不織布マスクで、夏に強い」ものがベスト。アイリスオーヤマのナノエアーマスクは、それに沿うものです。こういう明確なニーズへの対応は、やはり日本メーカーが強い。改良品を作ることで、頑張ってきた国でもありますから。

また、ナノエアーマスクを含むアイリスオーヤマは、どの販売ルートでも重宝されるアルミパックですし、そのままバックに突っ込める様に「透明個装パック」しているます。営業的にも、ユーザーへもきめ細かい対応がれています。

 
しかし、マスクは最寄品と言えば最寄品。最寄品のほとんどが海外で作られる理由は、「コスト」です。特にマスクは「利が薄い」とされています。しかし、海外で作るとなると、また感染症などの流行時、品不足の問題がある可能性は否めません(中国を見ていると分かりますよね)。また、フィルター変更による新規開発も容易ではありません。

アイリスオーヤマは、今回の国内生産を、「政府にお願いされて」と言っていますが、将来を十分見据えた上での判断だと思います。

 
一日本国民としては、国産マスクは大いに頼りにしたいという思いもフツフツ。ビジネスプランに関して、いろいろ書きましたが、シャープ、アイリスオーヤマ、ユニチャーム他、日本のマスクメーカーに頑張って欲しいものです。

 
尚、この後、アイリスオーヤマは、複数の地方自治体と災害時におけるサポート契約を結びます。各工場があるエリアの自治体へ救助物質を速やかに届ける契約です。

今までは、自治体が購入した装備をストックしていましたが、メンテも含めて管理が非常に大変です。その点、アイリスオーヤマはホームセンターの商材なら、すぐ集められ対応できます。そうするとストックも最低限で済みます。出来過ぎた新しいビジネスの様にも感じられますが、実際にそれが始まっています。

機を見るに敏と言えるアイリスオーヤマはマスクだけでなく、災害時に頼れる企業になりつつあります。

 
◾️関連レポート
家電メーカーの作ったマスク。
アイリスオーヤマ のマスクの優位性を検証する。(前編)
https://www.seikatsukaden.com/?p=29805
アイリスオーヤマ、奈良県田原本町と「災害時における物資等の供給支援に関する協定」を締結。
https://www.seikatsukaden.com/?p=29666
 
商品のより詳しい情報は、以下のURLでご確認ください。
https://www.irisplaza.co.jp/index.php?KB=091014efeel#range
 

 
#マスク #国内生産 #不織布マスク #アイリスオーヤマ #シャープ #生産ライン #ナノエアーマスク #生活家電.com

2020年9月4日

タグ: , , , , , ,