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炭焼うなぎ専門店「鰻 炭焼 ひつまぶし 美濃金」、東京に初出店。


男性が8割と言われた江戸の町。当然外食が流行ります。江戸の町での外食四天王は「蕎麦」「鮨」「天ぷら」そして「鰻」です。この4つは、いろいろな店が覇を競ったためでしょうか、凄まじく洗練され、家庭で作ったときの差がすごくあります。今でも、この4つは外食で楽しむのが当たり前です。
そんな中、長良川の清流で有名な、川魚の宝庫 美濃の国(今の岐阜県)より、東京進出してきた店があります。「鰻 炭焼 ひつまぶし 美濃金」です。オープン直前の店へ寄り、覗いてみました。
 

●東京店の看板。うなぎがデザインされた「う」の後ろは、美濃国のシルエット。
ちなみに、岐阜県は、美濃と飛騨のが合わさっている。


 
■「鰻」はかなり特殊
四天王は、「蕎麦」「鮨」「天ぷら」「鰻」。と書きましたが、こんも中で、鰻はかなり特殊です。食材の扱いが全く違うのです。「蕎麦」「鮨」「天ぷら」は屋台でも、出されます。それだけ、手軽で、手早く調理できるからです。

一方、鰻は、注文が入ってから、裂き、焼きます。その時間ざっと四半時。約30分。気の短い江戸っ子が、鰻だけは待つのですね。

ちなみに「そば(蕎麦)前」という言葉があります。蕎麦を食べる前に、つまみを食べながらお酒を飲むことです。店にも「焼き味噌」を筆頭に、「いたわさ」「たたみイワシ」「卵焼き」など、こざっぱりしたつまみが用意されています。鰻屋も飲みながら、待ちます。が、つまみはせいぜいお新香。二八蕎麦(蕎麦粉:8割、小麦:2割)は、お上(瀑布)から16紋で売るように定められていた時代です。店舗を構えた蕎麦屋は、半分居酒屋にして儲けていたのでしょうね。一方、鰻は江戸時代でも、それなりの値がします。江戸っ子で、大金持ちはいませんので、から酒にしたのかも知れませんね。この習慣は今でも残り、鰻屋のメニュー数はあまりないのが普通です。

 
■鰻を美味しく食べる3大要素
漫画「美味しんぼ」が、連載を始めてすぐ、鰻をテーマに書かれた回があります。先代より後を継いだ息子が、客回転を上げるため、炭火ではなくガスを使って焼くことにしたところ、板前が憤り、店を出奔してしまったお話です。

その中で、鰻を食べるときの蘊蓄が幾つか述べられています。
前述の鰻は焼くのに時間がかかるのもそうですが、「香りで食わせる」のもその一つ。落語などでも、鰻の焼けるニオイを嗅ぎながら、白米をかきこむシーンは結構よくでてくるパターン。客が少ない時は、外に向け盛大に煙を出します。煙は、鰻の脂とタレが炭火に当たって出るものです。この焦げの香りが堪りません。

そして、鰻、「炭火で焼く」のが普通です。ガスを使うと、燃やした時に、二酸化炭素とともに、水蒸気が出ます。この水蒸気が悪さをするのです。鰻はかなり脂の多い魚。これをしつこくないように焼こうとすると、本当に熱だけが理想。脂の抜けた後に入り込もうとする、べっちょり感の元になる、水蒸気などは要りません。

炭火で1つ1つ焼き具合を見ながら、じっくり焼き進めます。鰻職人は10年で一人前だそうで、すごいものです。

いい鰻屋は、
1)焼くのに時間がかかる
2)香りを大切にする
3)炭火で焼く
というわけです。そして、これらは当たり前でありますが、忙しい今の世、味を落としても利便性を追求する飲食店があります。しかし「鰻屋」を名乗るなら、最低守ってほしいことでもあります。

 
■令和の「煙」事情
今回、美濃金が出店したのが、東京は外神田6丁目。神田は古くからの地名であるため、かなり広範囲に使われます。このため、住所を聞いてもピンとこないことが多いのが普通です。
地下鉄の駅で言うと「末広町」。上野山下と秋葉原の間に中央通りが走っており末広町駅はだいだいその中間にあります。店は、中央通りから一本入ったところのビルの1階に作られています。

小ぶりなドアから、店内に入ると、今時の風景。古めかしさの全くないモダーンな作りの店です。

●幅は1m位あったと思いますが、横に柱があり、狭めに感じられる。


今ドキの店なので予想は指定なのですが、店内「鰻の香り」がほとんどしません。厨房に近づくと、さすがに少しはするのですが・・・。ちょっと残念です。

煙は、今の東京の事情を考えると無理ですね。正確に言うとほしいのは、煙でなく、香りなのですが、何かいいアイディアはないものですかね。

 

●香りは嗅げないが、外から厨房は見えるよう設計されている。
食のエンタメ化の1つ。


●正面は渋い雰囲気だが、
横にはうなぎのネオンがあり、おいで、おいでしている。


 
■山椒もすごいぞ!
鰻の付け合わせで、もう一つ香りの高いものがあります。「山椒」です。
個人的にも、好きな香りです。話はそれますが、陳建民(陳健一のお父さん)の四川飯店が六本木にあったころ、結構、ランチに使いました。このランチメニューの坦々麺にも、たっぷり山椒が使われており、百馬力の芳香でそた。さあ、お食べなさいと呼ばれている感じもあるのですが、とにかく美味しい。ランチメニューなので、1000円以下。コストパフォーマンスもよく、ある意味、神ランチでした。

それはさておき、美濃金の山椒は自前です。
自分のところに、加工工場を持っているのです。奥深い飛騨の山中より、選りすぐりの山椒というだけでなく、ギリギリまで、香りを追求したわけです。

オリジナルの山椒。香りの立ち方が半端ない。
個人的に、販売してほしいよう思う。


かけてみると、すっと香りが甘い鰻丼の香りの中に立ち上ります。味に先立ち、香りの饗宴。鰻を食べる嬉しさが、体に広がります。

 
■鰻丼を食す
鰻丼に乗った、鰻はぷっくりとした厚み。ちょっと焦げた皮と共に、実に美味そう。食べると、まず皮が絶妙に旨い。そして、実はほっこりで、脂っぽくもありません。
いくらでも食べられるというモノです。

鰻が良いのはもちろん、美濃 地焼きと名付けられた焼き方で、しっかりと焼き切ります。脂っこくない。食べやすい、美味しい鰻です。そして、ご飯、タレ、ともにいい。全部が丁寧に作られていることは、味から、香りから伝わってきます。

鰻は、全部長良川の・・・とはいかないですね。産地に固執すると、味を損なうこともあるので、その時々のいいものを、その都度入荷しているとのことでした。

お米は、ハツシモ米。ハツシモは初霜の意味で、稲刈開始が霜が降り始める頃であったことからきています。できたのは、昭和25年。戦後5年ですね。他県では生産されていませんが、岐阜県では作付け面積NO.1だそうです。

歴史のあるお米ですが、コシヒカリとはかなり異なります。どりらかというとあっさりめですから、ササニシキに近い感じ。おかずを引き立てる系のお米です。鰻丼の場合、「鰻」「タレ」ともに、味が濃厚ですから、それを受ける米が強すぎると、味がケンカします。その点、とても良い感じに仕上がっています。

鮎が名物でもある清流域で収穫されたハツシモ米は、羽釜で炊き上げられます。不味いわけなどありません。

鰻、焼き、米、炊き、タレ、山椒。隙がありません。

 
■さすが、名古屋エリア
岐阜は、斎藤道三が国盗りをしたことでも知られますが、その跡を継いだのが、織田信長。そのためでしょうか、一部に金色が目立ちます。駅前には黄金の信長像がありますし、金(こがね)神社という金の鳥居を持つ神社もあります。

●黄金の信長像


●金神社鳥居


そして「美濃金」にも「金」。
洒落たわけではないでしょうが、この店の最高値は、「ディナー限定10食 美濃金謹製月見肝入り鰻丼」です。

●ディナー限定10食 美濃金謹製月見肝入り鰻丼 金11,900円也(税込)
鰻丼の上の金色の部分は、金箔。


食えないほどの鰻(二匹)が乗った鰻丼です。ゴージャス。黄金の国、ジパング。

鰻は、冷めると美味しくなくなるので、基本ご飯がないところにはのせませんが、セオリーがどうでもイイと思えるような、力があります。
名古屋で、かつを大盛りにすると、東京なら厚みを厚くして一回り大きなカツが出てきますが、名古屋は違いますね。同じ厚みで、2倍の大きさのカツがでてきます。瞬時に、どんなモノかが変わります。誰にでも分かるストレート・ビジュアルは、名古屋の強みです。

また、卵黄を合わせるのも、美濃金流。かなりまろやかになりますが、卵は和に会いますからね。

 

●タレかけ卵黄。美味しく、これだけで丼1杯は食べられる。


 
他のメニューの写真もこの通りです。

●肝入りひつまぶし 上 金6,350円也(税込)。


●鰻丼 上 金4,950円也(税込)。


●鰻丼 波 金3,750円也(税込)。 名古屋エリアらしく、並の見た目はしょぼい。といより、他がゴージャスすぎ!
しかし、これでもかなりゴージャス。


 
■グローバルを目指す「鰻丼」
さて、いろいろな工夫がされた美濃金ですが、もう一つ面白かったのは、ワイン、赤ワインとの合わせを推奨しています。私は知らなかったのですが、フランス ロワール地方の名物料理に、鰻の赤ワイン煮込みがあるのだとか。

●美濃金では、赤ワインを推している。


日本人は、縄文時代(縄文遺跡から痕跡が見つかったんだそうです)の昔から、鰻大好きな民族。一方、ヨーロッパで力を持つユダヤ人は、戒律に「うろこのない魚は食べてはダメ」なのだそうで、日本人が好む、鰻、タコなどはあまり食べられません。まぁ、両方ともに、すごい形の生き物と言えば、その通りですが・・・。

閑話休題

この事例から、赤ワインとの相性はいいのではと考え、ワインをお薦めしているのだそうです。
私は、ブルゴーニュのピノノワールが気に入りましたね。そんなに重くないボディですが、味はしっかり軽やかです。そしてフルボトルで6,800円(税込)。この味でしたら、レストランだと、諭吉くんが翔んで行くと思いますね。

●美濃金 ワインリスト。


今、シンガポールなどでは、鰻丼は、「ジャパニーズ・ウナギ」で名が通っているのだそうで。そうなると日本酒だけと言うわけにはいかないでしょうね。どうしても彼らが飲み慣れたワインが必要になります。

こちらも南蛮文化を好んだ、信長好みかもしれません。

 
念の為、付記しておきますが、日本酒は岐阜県産の銘酒も用意されていますし、ビール、焼酎もあります。

 
■未来形鰻屋
江戸湾(今の東京湾)で取れた魚を使った料理を「江戸前」と呼びます。
鰻の生息地は汽水域。しかも泳ぎは下手ですから、隅田川の河口付近にはいっぱいいたようです。
中でも、江東区を東西に縦断する小名木川(おなぎがわ)は、多く住んでいたとか。川とはいうものの、水運のために掘られた運河ですからね。きつい水流もありません。

東海道四谷怪談では、悪人の一人である直助がうなぎかきで四谷怪談の見せ場の一つ「戸板返しの場」登場します。ドラマなどでよく使われる小名木川のクローバー橋の近くです。

まぁ、それはさておき、高度成長期以降、自然は本当に汚染され、江戸前というのは、老舗の鰻屋といえども、言葉だけになっています。彼らが古き時代の証人だとすると、こちらは、グローバル時代の鰻屋といえると思います。

そうなると、ちょっとメニューが足らないかも知れません。山椒を効かせたサブメニューなどは、考える価値があると思います。また、ロアール地方の鰻のスープなども、有りかも知れません。普通のレストランで食することができないので、フランス料理屋からも文句言われないと思います。

今は、昔ながらの鰻屋ですが、どんどん、鰻ならなんでもありますというのは、大いにあるのではないでしょうか?

 
スーパーで2,000円位のべちゃべちゃした鰻を食べるなら、回数を減らして、こちらの方で食べるのがお薦めです。

 
古さと新しさが同居した、東京「美濃金」は、10月22日(土)、新装オープンです。

 
 
●店舗情報  
 
詳しい情報は、以下のURLでご確認ください。



 
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2022年10月20日

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