レポート

2020年、家電メーカーの「マスク」のまとめ(前編)。
シャープの場合。


今年話題になった「モノ」と言えば、「マスク」でしょう。
中でも、中国からの輸入が滞る4月、国内生産を始めたシャープはすごく注目を引きました。そして、アイリスオーヤマは、7月国内ラインを立ち上げました。2020年らしいこの2社のマスクを総括してみたいと思います。
 
◾️シャープのマスク生産の経緯
 
●親会社「ホンハイ」の動き
 
シャープのマスクですが、これは今のシャープの親会社は台湾の鴻海精密工場(以下ホンハイ)であることを念頭に入れて置く必要があると思います。

台湾は2020年、コロナに対しての封じ込め対策を徹底させた国であり、ホンハイも2月よりマスク生産を開始しています。親会社の動向をウォッチしていない子会社はありませんから、シャープもやり方によってはマスク生産できることを十分に認知していたと思います。

多くの人には、シャープが突発的に異業種参入を決めた様に写ったと思いますが、近しいところにお手本はあったわけです。

 
●生産決定から初回出荷

三重県でマスクを生産しているシャープ工場


2020年2月、中国はマスク輸出を全面ストップ。世界の工場と言われる中国が全面ストップさせたわけですから、これは大変。世界中がパニック。欧米と違いマスクに違和感の薄い日本は特にです。ここで日本政府は、有力メーカーに打診を計ります。

これに応じたのがシャープ。2月28日にマスクを生産することにゴーサインが出されます。この時、日本政府は、国内マスクメーカーへ増産の補助金を出しています。ところが、国内生産メーカーのほとんどは「布マスク」。今まで手作業でしていた部分を機械化するなどをしますが、使い捨て前提で量産される不織布マスクと違いますので、増産分もたかが知れています。今まで、利が薄いマスクで改良できなかったラインを、この期に改良したという感じです。

厳しい言い方かも知れませんが、政府の補助金の条件もすこぶるおかしく、申し出て1ヶ月以内に、効果が現れなければダメだというモノです。ラインの改良ならともかく、増設を1ヶ月なんてまず無理。生産場所の確保。材料の手配、品質チェック、機械の搬入、設置、テスト。できたマスクのチェックと
第三者機関での認証。毎日のように「無理難題ハードル」を超える必要があります。

そんな中、1つの大きな光明は液晶パネルの生産量が落ちたため、シャープは工場に空いたクリーンルームを持っていたことです。要するに、大きな難関の一つ、生産場所の確保がすぐできたのです。

そして、ラインで生産を開始したのが、3月24日。3週間と3日。これはとてつもない速さです。

マスクの生産ライン。


 
●販売は、50枚入りの箱単位。ネットのみで販売。透けて見えるビジネスの弱点

実にシンプルな包装。見た瞬間絶句したほど、簡素。


初めのうちは、政府の指示した医療関係への出荷だったと聞いています。それが終わった4月27日。抽選による一般販売が始まります。箱単位、ネット販売のみです。実は、この前にネットでの販売に踏み切ったのですが、当時マスクは市中にほぼない状態。サーバーもパンクして、販売ページに全くアクセスできない状態になりました。これを経ての抽選販売だったわけです。当選は約100倍。競争ではなく、狂騒と表現した方がよいレベルでした。

実は、それほどの人気のシャープマスクですが、私は危惧していました。その理由は、シャープはドラッグ、薬局系の営業ルートを持たないからです。逆に言うと、自社で販売するためには、ネットを利用するしかないわけです。どこかと販売ルートの提携すればという人もいるでしょうが、マスクは基本利が薄いのです。販売を委託した場合、市場価格に引っ張られる上、委託料を支払う必要があります。生産しか整わせることができない状態で、しかも新規分野でのことでもあり、シャープには到底受け入れられることではなかったと思います。

原材料供給部分。この現材料は、他社調達となる。


また、ドラックルートで売るとなると、本格的にパッケージしなければなりません。となると、ますます利が目減りします。それもあったと思います。ネット販売一本で通す。マスクがまったく足りない時期ならではの判断と言えます。

 
しかし、ここでシャープは上手い施作を一つ入れます。それは応募者は一度応募したら、その後、抽選に当たるまで自動的に継続応募とすることです。ユーザーは、マスクが楽に手に入る様になった場合、高いマスクは買いません。理由は簡単。不織布マスクは基本使い捨て。同じ性能なら安い方が良いに決まっているからです。

ここでのポイントは、マスクの性能は不織布で決まるということです。当然、材料の中で一番高い。不織布を調達しているシャープは、コスト、性能ともに容易に変更はできないのです。

そうなると市場は重要なのは、作った分だけ売り切ると言うこと。そのためには、応募してくれたユーザーを話さないことです。市場にはだんだんマスクが溢れてゆきます。しかしコロナという感染症に対して、中国製では心許ない。国産、日本品質なら、ちょっと位高くても買ってもらえる。実にうまい施作だと思います。

 
◾️小さめサイズマスクと常時配達

パッケージでざいんすらほとんど変わらない。


しかし、どんどんマスクは潤沢になっていきます。中国生産マスクで夏を乗り切った人も多いと思います。使い捨てのマスクに延々国産品質を延々求め続ける人はそうはいません。

夏でもあり、洗うより使い捨てが増えてきます。

次にシャープが行ったのは、小さいめサイズマスクの販売です。9月23日が第一回抽選。私は実には巧みな手だと思いましたね。私はシャープのラインをじっくり見たことがないのですが、小さいマスク専用のラインを作らなくても、抜き刃を変えるだけで、小さいめサイズを生産できる可能性があるからです。包装単位、パッケージも普通サイズと同じ。しかも、売り方も同じ。

要するに、最小限の投資で、販売数量の安定化を狙っているようにも見えます。

実は、メーカーの経費で、目処が付きにくいのが、「開発」と「営業」。開発は納期通りに上げられるのかがポイント。遅れるとその分、赤字となりますし。第一棚の確保ができません。また、営業は、売れないモノを売り抜くという課題があり大変なところですが、その分人数を必要とします。要するに双方とも経費がかかり易いのです。マスクで言うと、需要がだぶつき、値が下がった時こそ、営業が力を発揮するわけです。それまでは作った分だけ売れますので営業は不要。あっても経費を使うだけとなります。

小さめサイズは、女性にフィット。
マスクでもオシャレが当たり前になった時期。


サイズ追加は、営業を持たないシャープでも打てる手です。考えたなぁと思う反面、シャープのビジネスプランの脆弱性がでてきたような気もしました。

郵便ポストに入る様にパッケージサイズを変更された。


そして、12月1日に「マスク定期便サービス」を始めました。これは30枚を月1回届けるサービスです。大きなポイントは郵送にするので、家に居なくてもポストに入れて置いてもらえる点と、送料無料である点です。またもう一つ大きいのは、千円台であるところです。30枚:1650円(税込)(55円/枚)。

それまでの50枚 3278円(税込)(65.6円/枚)送料別より、10円の値下げです。1箱買いの場合は今までの経緯があるので高いままですが、2箱買いができるようになり、その時は送料無料の5500円。ユーザーを定期便へ導こうとしているのが見えみえとも言えます。

現在のマスク生産機は9台。総計で約70万枚だそうです。2台でスタートしたわけですから、急速に育ったものです。

しかし、シャープは、ドラッグストアなどへの営業を持っていません。このビジネスを維持するために、ユーザーの囲い込みが必要ですが、そのアイディアが「定期便」なわけです。

 
◾️シャープの「マスク」のビジネスモデル
 
2020年のシャープのマスクビジネスをざっと見てきました。正直、私は国産だから、それなりの価格でも買うと言うのはそろそろ終わりだと思ったのですが、それに対し、一つの方法を出したわけです。

ところで、同じくマスク生産をしているホンハイはどうなのでしょうか?
ホンハイは大企業です。実はマスク生産は、マスクが足らなくなった時に、業務に支障を来さない様に従業員用として作られています。日本でもトヨタ他の企業が、同様のことをしています。

共通なのは、基本人数が多数で、しかもしっかり持っているということです。それに対して、シャープの場合に、自社用と言う話は聞こえてきません。

液晶パネルの時もそうでしたが、よくない話は何かと伝わりにくいモノ。需要がある今年はともかく、他のメーカーが増産をかけて以降は、厳しいのではと思います。しかし、4月、マスク狂騒時に大いにサポートしてくれたことは事実。頑張って欲しいものです。

 
◾️シャープの医療参戦計画
 
今、家電メーカーは医療関連を目指しています。シャープもその例外ではありません。

11月5日発表。『MCPC award 2020』を受賞したシャープの
「遠隔応対ソリューション」を活用した日光市民病院での“非接触”応対に関する実証試験


一番の目玉は、8Kディスプレイ。超鮮明に映し出されますので、内視鏡など検査、手術用のディスプレイから、手術時のサポート、セカンドオピニオンなどでも使えます。

医療に必要なのは、ミスがないこと。特に診断ミスには気を使います。ミスを未然に防ぐことができるなら、高価なものでも基本OKが出ます。8Kは人間の目の解像度を超していると言われています。拡大して映し出さない限り、これで十分となります。細部を拡大する場合、元映像は32Kとかすごいものが必要ですが、受け手、ディスプレイは8Kで十分。この分野、液晶から変更される
可能性があるとすれば、8K有機ELディスプレイですが、現在のところ、頑張っているなどの話も余り聞こえてこず、しばらくシャープの独壇場になる可能性があります。

マスクはこの医療への参入をバックアップする上で、重要な戦略商品と位置付けられています。また似たものとして、フェイスマスクも11月に発売しました。

しかし、しかしです。

それにしては、パワー不足なのではないでしょうか?
例えば、超音波診断装置などで有名なオランダのフィリップスは、N95、手術で使われるフィルターを使った電動マスクを市場投入しています。また「後編」で書く予定のアイリスオーヤマは、不織布を国内自社生産するため、いろいろな特性を持たせることができ、この夏に湿気のみ、外に出すナノエアーマスクを市場投入しています。

それに比べて、シャープは不織布を調達してマスク加工するだけ。国産ということはありますが、それ以上のポテンシャルはありません。

私は、シャープのマスクでのアクション、市場の反応、そして実際に使ってみて、シャープの主張と現実には、隔たりがある様な気がします。

11月に出荷開始されたフェイスマスク。


しかし、個人的には、これが杞憂であることを願っている。それは日本でマスクがない時に社を上げて頑張ったシャープが、頑張ってくれたマスクで失敗するのを見たくないからだ。

さて、2021年。シャープマスクは、どうなるのだろうか?

 

 
#シャープ #マスク #生活家電.com

2020年12月12日

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