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日立、空気清浄機「EP-VF500R」。
中国市場を狙った「日立」の王道戦略モデル「EP-PF120C/90C」を凱旋販売。


このレポートの取り上げた空気清浄機「EP-PF120C/90C」が、モデル「EP-VF500R」として、2020年2月29日に、日本でも販売されました。
このため、WEDGE Infinityに2019年4月11日に掲載されたレポートを加筆修正したうえで、掲載致します。

モデル「EP-VF500R」として日本でも販売される中国モデル「EP-PF120C/90C」。
日立の戦略モデルでもある。


■世界中が狙う中国市場
今、全てと言ってもいいほどの多くのメーカーが、中国市場で成功することを狙っています。13億人の民。裕福層が1%として1000万人。と言いますので世界No.1の市場規模です。

中国の友人の話を聞くと、現在の中国は、1980年代頭の日本のようです。
当時高度成長を成し遂げた日本は、海外からも「Japan as Number One」と評され、日本のやり方は間違っていない、俺たちはできるんだ、未来は明るいんだという雰囲気でした。当然、活気に溢れ、消費も盛ん。ファッションも、海外有名ブランドが押し寄せて来ていましたし、セレクトショップ、デザイナーブランドが街を賑わせていました。
 
それに近いのが今の中国。グローバル化の波に洗われ、ファッションも街並みも洗練されてきました。世界各国から、最新の文化、情報、衣・食・住が押し寄せてきます。そんな中に、日本の家電製品も入っています。しかし、ソニーなど、一部のブランドを除き、メーカーブランドの認知は低いそうです。今回レポートする「日立」は認知が低い方になります。

日立は、2019年4月1日、今まで家電の設計・製造および空調の販売・サービスを行ってきた「日立アプライアンス社」と、家電・空調の販売・サービスを行ってきた「日立コンシューマ・マーケティング社」を合併させ、「日立グローバルライフソリューションズ社(以下日立GLS)」を立ち上げました。

そこが手がける第一弾製品は、何と「中国市場向け」の空気清浄機。
普通、中国向けの製品は、国内メディアに対してニュースリリースすら出されませんが、今回は別でした。

「Hitachi meets design PROJECT」と名付けられ、デザイン改革を目指した活動の第一弾でもあり、破格の扱いでいろいろなところでお披露目されています。

日立はどのように変わろうとしているのでしょうか?

 
■中国の空気清浄機の現状
皆さんもよくご存じの通り、中国の空気事情は、最悪に近いです。2018年に発表された2016年のWHOの統計データーでも、2016年の都市部でのPM2.5の平均濃度で、中国(北京)は第15位。年間平均濃度:51μg/m3。日本の環境基準が、年平均: 15μg/m3。日平均:35μg/m3 ですから、その汚れっぷりは大したモノです。当然、健康への悪影響は避けられず、空気清浄機は生活必需品となっています。

空気清浄機に、PM2.5がどの位の濃度か、数値で示される。
中国には必要なスペック。


そんな中、中国はアメリカで使われている規格「AHAM」を規範にした自国規格を作りました。それが2018年春に施行された「GB規格(中国標準規格)」です。

AHAMからはCADR(クリーンエア供給率)を取り入れています。CADRは、1分で、どの位の空気量をキレイにすることができるのか? を示します。日本のJEM規格では、空気清浄を部屋の空気をキレイにするモノとして捉えています。このため、部分的に空気の出入りがあるオープンスペースに対しては、適当とは言えない部分があります。しかし、AHAMの場合、オープンスペースも考慮して考えられています。このため部屋の空気を何分で浄化するのかではなく、1分間にどれだけキレイに出来るのかで判断するわけです。

GB規格はCADRに加え、日本でも新建材で有名になった「ホルムアルデヒド」の除去も規格化されています。中国のマンションなどの内装はほとんど新建材で、ホルムアルデヒドがバシバシ出てくるためです。日本では建築法により、ホルムアルデヒドがでない、もしくは換気を行い中毒などが起きないように規制されています。そうではない中国では、空気清浄機にホルムアルデヒドの処理も託します。

その他いろいろなことが細かく決められています。そして中国のテスト機関で認証テストを受けクリアする必要があります。それまでは日本国内のJEM規格のデーターを、中国市場でも使っていました。このため空気清浄機を中国で販売するためには、認証テストを受け直さなければなりません。GBはJEMよりかなり厳しいですから、国内でスゴいデータを出している空気清浄機が、GB規格ではありきたりの性能でした、などということもあり得ます。

 
■日立は「made in Japan」のビジュアル化で、ブランドイメージを狙う
日立は日本では、家電メーカーとして名が通っていますが、海外では幾つもある日本メーカーの1つでしかありません。そんな中、中国市場で強固なブランドイメージを確立をするために日立が取ったのは、「made in Japan」の品質を、目に見える形で提示する手法です。
似た手法は今までにも例があります。自動車でいうと、ジウジアーロデザインのいすゞ『ピアッツァ』、バイクでいうとハンス・ムートンデザインのスズキの『KATANA』ですね。この両社、品質は良いのですが、デザイン主張性が弱い。メーカーイメージが弱いのです。それの強化策として、社外の有名デザイナーを採用したわけです。特にスズキの「KATANA」は、今でも大人気のデザインで、スズキのバイクの代名詞にもなっています。

キレイな成形品質。美意識が感じられる。


今回、デザインを依頼されたのは、深澤直人氏。超売れっ子のデザイナーです。昨年発表されたAQUAの冷蔵庫も良かったですが、この空気清浄機のデザインも、実にインパクトがあるものでした。

モデルEP-PF120C/90Cのデザインは実に魅力的です。大人しい佇まいながら、正確に並ぶスリットがまず第一の魅力です。障子にも通じる幾何学的な規則性が何とも言えません。やや厚手に成形されているために、安手の家電にありがちなペラペラさがありません。

そして部屋隅角に置かれることを前提とした切り落とし。あるべくしてあるデザインで、非常に気持ちがいいです。中には、部屋の真ん中において下さいなどと言うメーカーもありますが、部屋は人が使うものであって、家電に占拠されるためにはありません。実は部屋の四隅に空気清浄機を置くのは実に有効です。部屋全体換気する時のライン上です。しかも自然後ろにスペースができますからね。しかも昔のようにテレビが鎮座ましますということもなくなりました。

またコンソールの「字」も非常にキレイです。空気清浄機は黒子であるべき家電なのですが、その中でもこれほど高品質、優れた工業製品である「made in Japan」を感じさせるデザインもあまりありません。よく海外では「クール」と評されるデザインです。日本メーカーでその様なデザインを出したのは、過去のソニーですが、それが高じてそのメーカー製品への憧れ。中国でも支持されるメーカー、ブランドとなるわけです。
メーカーがユーザーに問うのは「製品」。優れた経営者ではありません。創業者がいる間、そのメーカーが強いのは、「作りたいモノ=製品」を、トップが完全に把握しているからです。ダイソンなどがぶれない理由が分かりますね。

EP-PF120C/90Cには、それほどの明確さ、高品質が製品から見て取れます。

 
■「made in Japan」の弱点はラインナップで吸収
高品質な「made in Japan」ですが、弱点も持ちます。
それは「コスト」です。低価格販売には向きません。今回、日立は絶妙なアイディアで切り抜けています。取った戦術は「ラインナップを限定する」方法です。EP-PF120C/90Cは、2機種3モデルのラインナップですが、適応床面積が、120C:46〜78m2、90C:32〜54m2なのです。お分かりの通り非常に大きいのです。これは家電大国日本で買っても、安くは買えません。空気清浄機は使用するHEPAフィルターサイズが、コストに大きな影響を及ぼします。適用畳数大というのは、大きなフィルターを使っているということですから、どこで作っても、どうしても高い売価にせざるを得ません。

高価格な理由が明確ですので、日本での生産が可能ですし、日立ブランドの象徴となるカッコイイデザインも取り入れることができたわけです。

巨大なフィルター。高コストの要因。


先日、ハイセンスのテレビが、「高機能」「低価格」で日本市場に働きかけてきたことをレポートしましたが、日立はその真逆の戦略です。高性能、高品質。それをビジュアル化したデザインを引っさげ、もともと価格が高いエリアで名乗りを上げたわけです。日本メーカーの財産「高品質=made in Japan」を上手く活かした戦略といえます。
 
■地域への歩み寄り
今一番細部まで決まっているGB規格ですが、決まっていないこともあります。それは、フィルターの寿命の算出方法です。

例えば、スウェーデンのブルーエアー社は、CADRでトップデーターを叩き出しますが、フィルターは半年で替えるように記載されています。ダイソンで1年。ところがシャープは10年とカタログに書かれています。同じHEPAフィルターを使いながら、どうしてこうも違うのでしょうか?

それは、フィルターの寿命はメーカーが決めるからです。

実は、日本の標準規格JEMには、フィルターの寿命の決め方が記載されています。タバコ5本/日で汚れた空気をキレイにして、フィルターの能力が50%になる時が寿命です。これに沿うと、確かに、シャープのカタログに記載されているように、10年取り替えずにすみます。しかし、中国のPM2.5の濃度は、タバコより酷く、それが四六時中ですし、日本だって花粉の時期は、毎日膨大な量を処理する必要があります。このため実際には、10年より余程「短命」になります。

ブルーエアーの空気清浄機の場合、10年使うと、多くの場合は、トータル費用の半分以上をフィルターが絞めます。次に電気代。空気清浄機本体など、30%以下のウェイトしか持ちません。そこまで計算しないユーザーも、フィルターを替えるとかなりの出費になるので、なるべくフィルターは長持ちして欲しいと思っています。

 
今回、日立が採用したのは、JEMで能力50%で寿命とされているところを、80%で寿命としました。フィルターの寿命を2年としました。本当にそれでOKなのかは、今から分かることですが、今まで使ってきたJEMに変に固執しなかったのは良いと思います。

実は、GB規格施行後、それまで認められていたJEM規格での適応畳数などは誤っているものとして、当局が指摘、排除したいう話も聞いております。とにかく日本と中国では状況他まるで異なりますので、やはりメーカーとしても真摯な対応で、その地に馴染むことが必要だと思います。

今回の空気清浄機『EP-PF120C / 90C』は、よく錬られた「made in Japan」モデル。アジアの各地域への輸出も決まっていますし、余りの出来のよさに、日本での販売も検討されているとか。「日立」ブランドが中国に根付く礎になって欲しいと思います。
 
■故郷に錦を飾れたか?
さて、冒頭に記載しました通り、空気清浄機「EP-PF120C/90C」が、モデル「EP-VF500R」として、2020年2月29日に、日本でも販売されました。
ヨドバシのネット通販価格:99,000円(税込)。〜51畳とはいえ、さすがの価格です。

このためでしょうか、ヨドバシでも「おとりよせ」となっています。
中国は、生活必需家電であり、富裕層の多さから、予定通りの結果になったと思いますが、絶対的な富裕層が少ない日本では、苦戦をするかもしれませんね。

日本で発売されるようになったのは予定通りとして、
この後の展開をどうするのか?


凱旋帰国での発売なわけですが、普通のユーザーへの認知をもう少し上手くできないものでしょうかね。
続けてきた「嵐」を使った広告も、もうすぐできなくなりますし、もう少し認知を上げるためにも、何か工夫が欲しいものです。

また、鉄は熱いうちに打て、デザインシリーズの2弾、3弾も見たいモノです。

 
商品のより詳しい情報は、以下のホームページにてご確認ください。
https://kadenfan.hitachi.co.jp/airclean/lineup/nfdesign/
 

 
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2020年3月3日

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