思うこと

韓COWAYが指摘した「日本市場はガラパゴス」を考える。(前編)


「ガラパゴス」。ご存じダーウィンが進化論の元になる、島ごとに独自な進化を遂げた生物を見つけた地で、世界遺産にも登録されています。家電では「(日本)独自進化」を遂げた家電のことをいいます。しかし使われる時は、どちらかというと悪い意味です。無駄に進化した機能でコストアップして輸出できないなどと、揶揄されます。
■COWAYってどんな会社? 今回、韓国で空調家電などのメーカー、COWAY(コーウェイ)社が、日本上陸、空気清浄機を販売することになりました。馴染みはないと思いますが、1989年、浄水器、空気清浄機の専門メーカーとして立ち上がった会社です。今では、温水洗浄便座、マッサージチェア、スロージューサーなど多岐にわたり製品展開をしていますが、基本は浄水器、空気清浄機で、韓国の純粋想起(全くヒントなどない状態での思いつく)ブランド調査で、浄水器で40%、空気清浄機で38%ですから、間違いなしのトップブランドです。また韓国では、ヒュンダイ、サムソン、LGより、ブランドイメージはよく、例えば、韓国能率協会コンサルティング主催の「韓国産業のブランドパワー」では16年連続1位を獲得しています。

 
■COWAYが、米国でやってきたこと 今、空気清浄機の最大市場は、中国です。次がアメリカ、日本は第三位の規模と言われています。中国は空気汚染が改善せず、あれば売れる状態だそうです。
今回日本に上陸させた 戦略モデルAIRMEGA(エアメガ)の最初のターゲットは、アメリカ市場でした。そして、独IFAと並び称される家電見本市 CESで発表。2016年のことです。以降、3年間連続でCES「INNOVATION AWARD」を受賞します。

COWAY代表取締役社長 イ・ヘソン氏


次に彼らが行ったのは、Amazon社との関係強化。2017年3月には、空気清浄機として初めてAmazon Alexaに対応します。そして今年の3月、同社のDRS(Dash Replenishment Service)にも対応しました。消耗品の残量が低下したときにコネクテッドデバイスから物理的な商品をAmazonに注文できるサービスで、具体的に言うと、空気清浄機のフィルターの寿命が来たら、Amazonへ発注。完全に寿命が尽きる前に、交換できるサービスで、ユーザーからは好評だそうです。
米国はという国は、節約より利便性を求める傾向が強い国です。このため、勝手に注文ということが成り立つわけです。日本人の感覚と違い、多分彼らのイメージだと、「自動引き落とし」の感覚に近いのでしょうね。その場合、このサービスは注文手間を省くものであり、フィルター交換=メンテナンスとなりますので、ベストな時期に、ベストなメンテナンスをすることになります。

米国で注目を浴びるCESでのアピール、そして彼らに合ったサービス。COWAYは米国で成功したわけです。

 
■そして日本へ 日本ではチャネル交渉に時間がかかり、アメリカから遅れること2年。日本にAIRMEGAがお目見えするわけです。その発表の中で、日本の空気清浄機が、世界標準から外れていることの指摘があり、COWAYは「世界標準仕様」だからこそ勝てるチャンスがあるとの発言がありました。

どこが「ガラパゴス化」というと具体的には次の3点です。

1)空気清浄機が「季節家電」として扱われている。
2)ほとんどの機種が「イオン発生機」を、付けている。
3)「加湿機と一緒」になっている。

グローバル化された今日、情報機器など黒モノ家電は、どこでも同じ様に使えるのが当たり前ですが、私は白物家電は気候、食文化、民族性など、お国柄が深く反映されて成り立つと考えています。日本人として、指摘された3つのことを考えてみました。

当日、会場で投げかけられた疑問。


 
■「季節家電」への回答 〜日本人の自然主義〜 今の東京は、お世辞にも自然が残っているとはいいがたいですが、それでも日本人は自然とふれあうことが好きです。風が入る時はなるべく窓を開けるのは当たり前。ただ現状は花粉症もあり厳しいですが……。

窓を開けている時は、当然、空気清浄機は使いません。海外からウサギ小屋と揶揄される日本の住宅事情なら、使わないモノは片付けます。これを衣類、家電でするのが、4月(5月)と10月の衣替え。

例えば、自分は「スギ花粉」の花粉症だとします。すると花粉が飛来のは1〜2月から始まり、5月までですから、空気清浄機を10〜5月の季節家電として使うのは可笑しくないわけです。

この間でも、スギ花粉の少ない時期は、窓を開けます。当然、その時、スィッチはオフ。日本人は自然と触れあうのが好きですから、なるべく窓は開放となります。必要な時に使うのは、薬と同じです。何も不思議ではありません。それが空気清浄機の季節家電化を生むわけです。

 
これに対し、海外の場合、PM2.5 などに着目します。年変動はありますが、通年必要とします。欧米は自然との共存ではなく、自然征服型が一般です。このため彼らは、自然は損なわれるものだと思っている節があります。話しを聞く限り、空気清浄機の年中付けっぱなしにするのに、あまり躊躇はないようです。

逆に、あれだけ騒がれながらも、日本はPM2.5の情報を積極的に流しません。花粉情報は、テレビでも流すのに、PM2.5はネット情報が主です。

また、空気(大気)汚染の指標となる、空気(大気)質指数と言われる値も表に出ていません。この値は、総合的な大気汚染をそのエリアの人に示すために作られており、採用するか、否かは、行政の判断になります。欧米の多くは、賛同、この数値を出していますが、日本は「光化学スモッグ注意報」など、一部の情報のみ発信しています。いろいろな理由があるにせよ、おかしい話しです。

2018年11月25日の気質指数。(ネットより転載)
確かに、韓国、中国より汚染されていないが、全て問題のない「緑」でもない。


「季節家電」ということに関しては、日本人の生活感、そして国内で流通する情報の不十分さで、この様な状況になっていると考えられます。

 
■「イオン発生機搭載」への回答 〜日本人の完全主義〜
今、市販されているフィルターで、空気清浄で最もよく使われているのは、HEPA(ヘパ)フィルター(High Efficiency Particulate Air Filter)です。今、掃除機の排気フィルターとしても使われているHEPAフィルターなので、名前はどこかで聞いた人が多いと思います。
HEPAフィルターは、JIS規格(日本工業試験規格)により、次の様に定義されています。それをみると「定格風量で粒径が0.3 µmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率をもち、かつ初期圧力損失が245Pa以下の性能を持つエアフィルタ」とあります。

端的にいうと、0.3μm(300nm)の空中浮遊物を、99.97% 除去しないとHEPAフィルターと名のってはいけないのです。小さいと言われる、微粒子:PM2.5の径は2.5μm。すごく小さいです。が、HEPAフィルターだと、ラクラク捕ることができます。「捕れないものなどない!」と大声で叫びたいところですが、捕れないものもあります。ウイルスとタバコの煙です。

多分、最も有名な「インフルエンザウイルスA型」は、80〜120nmと言われています。風邪の原因と言われているラノウィルスは、20nm。HEPAフィルターでの完全除去は厳しいです。また「タバコ」の煙の粒径は、中央値が約300nmです。当然、それ以下の粒子もあり、完全に取り切れる空気清浄機は、この世にありません。

日本のメーカーがここで登場させたのが、「イオン発生機」。シャープ プラズマクラスターイオン、パナソニックのナノイー、ダイキンのアクティブプラズマイオン、ストリーマなどです。これらは「ウイルス」にも対応します。ウイルスは端的にいうとタンパク質の塊で、これに作用して、タンパク質を変質させ、ウイルスが機能できなくするのです。これは理由も明確ですし、臨床実験もされています。また、第三者機関のテストデーターもあります。

シャープのプラズマクラスター
イオン発生ユニット。
2018年で10世代目に突入。


イオンを発生させる技術は新しいものではありませんが、小型化、省エネ化、耐久性を付けるには、技術開発が必要です。また、テスト、認証には、お金がかかります。日本のメーカーはそれをやってきたわけです。また、日本の部屋が狭く、イオン濃度が上がりやすいのもプラスになっています。

しかし、考えてもみてください。イオンは、ウィルスと出会ってこそ、初めてその効力を発揮します。高濃度でも絶対に100%とはなりません。それに対し、フィルタリングは、そこを通過する空気に対して、フィルターの穴径より大きければ100%。またそれより小さくても、静電気などで、かなり除去が可能です。イオンとウイルスが出会う確率に左右されるイオン発生機のようなものではなく、100%対応する技術を考えるという技術への考え方の違いでもあるかも知れません。

日本が対処療法を得意とするなら、海外は根本療法を得意という違いかも知れません。

 
■「加湿機能搭載」への回答 〜日本人の感傷主義〜
冬場、日本人は、加湿器を付けます。昔のだるまストーブの上にも、必ずやかんが置かれており、加湿器の代わりをしていました。のどが楽になることもありますが、昨今の場合、乾燥肌を防ぐことが目的の人も多いと思います。

また、個人的には日本の精神風土にも深く関わっているように思います。昔、海外のある人は「日本人は『水はただ』だと思っている」と驚いたそうですが、その位、日本人は水気が好きです。人間関係も似ており、ドライな割り切りが苦手。情に棹さし、のっぴきならなくなるのは、日常生活だけでなく、歌舞伎の台本にもちょくちょく見られます。ウェットであること自体、日本人の流儀と言っていいかも知れません。

歌川広重 名所江戸百景 大はしあたけの夕立
ゴッホが模写したことでも有名。


逆に、大陸、欧米の気候はかなりドライ、低湿です。旅先でも実感できますが、音楽でも実感できます。弦音の重さ、軽さです。日本で演奏すると、軽さがでない、どことなく重いのです。昔、海外スタジオで録音するのが流行したことがあります。ヴァイオリン、ギターなどの音色が変わるからです。「響き」ですから、メンタルに大いに関わってきます。

心も体もウェットな日本人ですから、ちょっと乾燥すると加湿機が欲しいのは当たり前。ですが、日本の住宅事情。空気清浄機も置いて、加湿器も置くと、部屋が狭くてしょうがありません。その上、冬場ですから、暖房器具があります。部屋は本当に狭くなります。このためあるメーカーが合体させたところ好評で、以降、一般的な仕様になったそうです。

これはユーザーニーズの差に起因します。

 
⇒To be continued (後半に続く)
※このレポートは、WEDGE Infinityに掲載されたものを加筆修正したものです。

「ガラパゴス」。ご存じダーウィンが進化論の元になる、島ごとに独自な進化を遂げた生物を見つけた地で、世界遺産にも登録されています。家電では「(日本)独自進化」を遂げた家電のことをいいます。しかし使われる時は、どちらかというと悪い意味です。無駄に進化した機能でコストアップして輸出できないなどと、揶揄されます。

 

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2018年11月25日

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