思うこと

ドローンで東電とゼンリンが組んだワケ


「空の産業革命」という仰々しいうたい文句で、紹介されたドローン。だが、本格ビジネスはまだまだと言ったところ。そんな中、ドローン用途の中で最大のビジネス規模と目される「流通用途」に、東京電力とゼンリンが「『ドローン・ハイウェイ構想』に基づく提携発表」で名乗りを上げた。そんなドローンの現状をレポートする。(2017.5.26にWEDGE Infinityに掲載した記事を加筆したレポートです。)
■東電とドローンハイウェイ構想
ドローンハイウェイ構想を出したのは、Amazon。2015年に飛行機、ヘリコプターが飛ぶことが認められていない低空域を区分けした提案をしたことにはじまる。

200フィート(約61m)以下を、空撮、測量など、現在すでに実用化されているドローンで使い、200〜400フィート(約122m)を流通用のドローンが使うとしたもの。このドローンの速度を60ノット(時速111km)としたために、ハイウェイと呼称されている。同じハイウェイでも、トラックによる高速道路輸送とはニュアンスが異なる。

クロネコヤマトが悲鳴を上げているAmazonの流通サービス。これを「無人」で動くドローンに肩代わりさせ、現在のサービスを維持することを考えてのことだ。流通と書いたのは、個人宅への配送だけでなく、長距離トラック輸送も考慮してのことである。

今回の、ゼンリンと東電の「ドローン・ハイウェイ構想」のために業務提携の発表を聞いた瞬間、「上手い着眼点だ」と思った。

ドローンの利点、欠点は多々あるが、一番の欠点は、「墜落の可能性」があることだ。となると、空を自由に飛ぶのではなく、空の道を作った方がいい。自由度は制限されるが、その分、安全も高くなる。その空の道が「ドローン・ハイウェイ」だ。

「ドローン・ハイウェイ」が満たすべき要素は幾つもあるが、大きくは3つだ。

1)全国にネットワーク化されること。
2)ドローン・ハイウェイの下は空き地が多く、できる限り人の出入りが少なく入り込めないようなところ。
3)そして、万が一墜落した場合、回収が容易であること。バッテリーチャージ、もしくは雨、強風時の避難ができる様なスペース、施設が適度な間隔であることだ。

高速道路で言うと、基本200m間隔で非常電話と共に設置さている非常駐車路側避難帯、もしくはパーキングエリア(基本15km毎の設置)、サービスエリア(基本50km毎)に似たモノと思えばいい。ちなみに鉄塔の間隔は、600m以下が基本だ。

全国的に張り巡らした送電線を、このドローン・ハイウェイに活かそうというのが今回のゼンリンと東電の考えだ。最終的に、どのようになるのかは不明だが、今回の提携での話は大枠は高圧電線。街中の電信柱&配電線ではなく、鉄塔&送電線である。東京で言うと区部のような密集住宅地ではなく、郊外の町(東京西エリアだと八王子市)を考えてもらった方がいい。

送電線、鉄塔の下は、立ち入り禁止になっている場合が多く、ドローンにとっては、絶好のエスケープゾーンと言える。鉄塔の間はそれなりにあるが、航空機と同じように、トラブル=即墜落と言うわけではなし、墜落しか手がない場合でも、操縦者は軟着陸するように、あらゆる手段を講じるはずだ。そう考えると、飛行場よりはるかに数が多い上、航路の真下の鉄塔の存在が、どれ程有利かは、ご理解頂けると思う。

要するに、送電線に沿いドローンを飛ばすと、万が一下に落ちた場合でも被害は最小限に抑えられるはずだというのが、今回の構想だ。また鉄塔以外に、送電線ネットワークには変電所がある。ここが高速でいうパーキングエリア、つまり中継基地にと考えられている。整備、電気の補給などに使える。そして鉄塔の下などのスペースは非常駐車帯というわけで緊急避難場所にすることも可能だ。

荷物輸送用の大型ドローン
ドローン展示会場にて


さらに付け加えると、送電線に沿うということは、ハッキリとした目標物があるため、非常に操縦しやすい。これは人間が操縦する場合でも、AIの自動操縦、いずれの場合でも有利に進む。そう考えると、細部、市街地の対応は未定未完ながら、ドローン・ハイウェイとしてはかなりリーズナブルなイメージとなる。

東電では、この構想の後、都市部の配電線でドローンで使うことを考えているという。やはり都市部での墜落は、緑地での墜落よりはるかにこわい。が、逆に都市部はビルが多いことも事実。使われていないビルの屋上、コンビニの屋根を使うなど、平屋根とのコンビネーションで対応できる気もする。またエスケープゾーンだけでなく、ドローンの機体もなるべく軽くし、重い荷物ではなく荷物を小分けにするなど、墜ちにくいルールを作ることも必要である。課題が多く送電線での成功を受けた形で行われると思われる。

ただ問題もある。配電線自体が、「ノー電柱化」で配電線が地下に敷設されつつあることだ。その場合は、街灯の上とか、街路樹を上手く使うことになるのだろうが、どう考えるのだろうか?

それとも地上にある配電地上機機を使うのだろうか?
いずれにせよ、抱えている課題は多く、実際に行ってみなければ分からないことも多い。

 
■ゼンリンの役割
東電が設備なら、ゼンリンは空路等の空の3Dマップ航路地図を作るのが役目だ。どこをどう飛行すると最もいいのかを3Dマップ化するのだ。ただ3Dマップは、座標の組み合わせはもとより、鉄塔等の電力インフラ情報で書かれており、現在のような地図帳という形ではなく、座標データーとしての供給になるという。

天候の変化は仕方がないとしても、地形的な特長のために発生する風の癖風や降雨などの気象情報は極力盛り込みたいという。書くと簡単そうだが、軽いドローンへの風の影響は大きいため、ゼンリンは、人間でいうと「経験と予想」といった、非常に重要な役割を担当することになる。

 
■即日配送サービスは維持できるのか?
このところ、ヤマト運輸の配送問題が大きく取り上げられているが、もしドローンが使用可能になるとどこが変わるのだろうか。現状と変わるところはいくつもあると思うが、その内の代表的なものを以下に書く。

まずは、長距離の自動輸送だ。最終的にはAI付きドローンに託されることになると思うが、宅急便の営業所から営業所、もしくはユーザーの所へダイレクトに運ぶことになるだろう。集積センターなどは不要で、このトラックを逃すと、翌日出発、なんてこともなくなる。音の問題がクリアできれば、24時間配達となる時代となるかもしれない。

次は、主には都会での話し。都会の配達時間でロスがで多いのは、上下移動だ。エレベーター設置の法強制はないが、建設省(当時)長寿社会対応住宅設計指針には、「6階以上の高層住宅にはエレベーターを設置するとともに、できる限り3~5階の中層住宅等にもエレベーターを設ける」とある。

ただ低層階のマンション、アパートなどでは、設けていない所もまだ多くある。昇り降りの繰り返しは疲れるし、時間も掛かる。しかも、配送先の住人が不在の場合、完全な時間ロスとなる。ドローンは上下に強いので、ビルからビルへ、マンション密集エリアの配送、特に古いアパートが多いエリアなどはかなり楽になると思う。

ただし問題もある。ルールの確定だ。郵便ポストのような、配送ポストが全家庭に行き渡るのは、まだまだだろうし、ドローン配送が実施可能になった時、どのような形で受け取るのかが大きなポイントとなる。案外、ユーザーからの電話でドローンが発進。この時、何らかの形でユーザー認証されるので、その場での受取印はなし。荷物につけられた固有の8桁コードなど入れれば受け取り終了など、簡略にルール化できる可能性もある。ドローンの特性を活かし、皆が気持ちよく使えるルールができることを願う。

 
■ドローンが「空の産業革命」であるワケ
近未来の世界を描いたSF映画には、多くエアカーが出てくる。どんなに便利になっても都市部には人口が集中する。となると地上の移動では渋滞が避けられない。地下は設備を作るのに莫大な投資が必要。そうなると空を飛ばすのが一番というわけだ。高度5mと10mでは交差しないので、地上だけに比べ、何倍もの人をさばくことができる。

現在の空を飛んでいるのは、ロケット、ミサイル、飛行機、ヘリコプター、そして鳥だが、ロケット、ミサイルは毎日は飛ばないので置いておく。次に鳥は体が小さいので、群れでない限り、人間本位の言い方をさせてもらうと、人間への影響はほぼ少ない。

飛行機、ヘリコプター、飛行船に関しては、航空法が適用されている。同法施行規則第174条で、「飛行中動力装置のみが停止した場合に地上又は水上の人又は物件に危険を及ぼすことなく着陸できる高度」か、市街地上空では「水平距離600m範囲内のもっとも高い障害物の上端から300m」、その他では「地上又は水上の人又は物件から150m」のうち、いずれか高いものとされている。こうなると高層ビルが乱立する東京は大変。例えば634mの東京スカイツリーのある押上にスカイツリーのような見上げる、そんな高いビルはないが、この近辺では934m以上でないとダメということになる。

そんな中、ドローンが注目されたのは、今使われていない低空域を使うからだ。どこからどこまでかは、飛行機と異なり国をまたぐことがないため、各国の法律に従うことになる。人が乗ることはできないが、この高さだといろいろなことができる。ドローンが「空の産業革命」と呼ばれるのは、その利便性の故だ。

ただ現在の所、すごいと思うレベルには達していないため、「産業革命」と言われても感覚的にずれているとお思いの人も多いと思うが、ドローンハイウェイなどができてくると変わったなぁと思われるはずだ。

 
■ドローンの長所、ドローンの短所
ドローンの長所はいくつもあるが、一番大きな点は、ホバリング(空中静止)ができる点だ。そしてノビシロが大きい点も挙げられる。どんな所でも荷物の受け渡しができるし、写真撮影などもしやすい。

ホバリングほどではないが、小回りが利くことも長所として上げられる。インフラ点検などで、人だと入っていけないような所、入るにはいろいろな装備を用意しなければならない所でも入っていけるのも大きなメリットで、効率的にインフラの点検ができるのも、小回りが利いてこの性能があってこそである。

またノビシロが大きいため、今後もドローンはどんどん進化して行くと考えられる。バッテリーの進化で航続距離をのばし、プロペラの改良、モーターの改良で、飛行効率ももっとよくなるとされている。またAIによる完全無人飛行の可能性もある。今、挙げたのはよく言われている可能性だが、ノビシロの幅はすごくが大きくいため、いろいろなことができる様になると考えられている。

次に短所だが、一番の短所は墜落の可能性があることだ。地球には重力があるので、この可能性は回避できない。その他、突風に弱い、雨に弱いなどの欠点があるが、いずれの場合も最悪の事態は墜落となる。

また、本格的に使われるようになると、騒音も問題になると思われる。「ドローン」という名前は「雄バチの羽音がドローンのプロペラが回転する風切り音に似ている」ことから来ていると言われているが、まあ静かとは言えない。赤ちゃんなら起きてしまうだろう。近くで数台飛行していたら、クレームになるのではと思われる。

カメラ搭載のドローン。
カメラもマニアがよだれを流す本格派。


 
■今ドローンが使われている分野
今、ドローンが使われているのは、「写真撮影」「測量」「建物、インフラの点検」「農薬散布などの農業サポート」が主だ。しかし、これらはドローンに期待されている分野の一部でしかない。「配送」「救急医療」「災害対応」「警備」等々。今以上に大きな分野での使用が期待されているのがドローンだ。2020年にはオリンピックで「警備」がクローズアップされるだろう。私などは、自分のちょい後ろを付いて廻るドローンが欲しい。手ブラで歩けるし、買い物だってラクラクだ。

農薬は、飛行機型(オスプレイと言った方がイイのか?)の
ドローンで散布するのが通例。


最近、どっと増えているのが「ドローン学校」だ。クルマで言うと、第二種大型免許(業務用の大型トラック)の教習所のようなもの。ただし国家免許はないので、あくまでも学校で学びましたということだが、操縦は経験がモノを言う分野であり、業界ニーズは高いと聞く。

さらに視点を拡げると、国際規格競争もある。経産省が宇宙航空研究開発機構と協力して衝突防止技術や自動管制システムを開発し、2025年を目標に国際規格を策定しに行くと報道されたのは、2017年2月。その実用化テストに、今回の提携は大きな役割を担うのではないかと思われる。

ただ、ドローンは軍事技術の側面を持つため、この話がそのまま進むのかは疑問符が付く様に思う。

 
■災害に強いインフラ
いろいろ書いたが、一度、ドローンハイウェイが整備されてしまうと、日本は手放せなくなってしまうだろう。特に災害が多い日本ではそうだ。よく被災地には復興のために、善意の救援物資が集まるが、上手く使われていないという報道は枚挙に暇がない状態だ。ドローンは荷物を少量ずつ、運ぶのが鉄則。つまり現場のニーズにより、少量ずつモノを配送することが可能なため、現場毎に必要なモノを的確に送付できる。

その上、災害にも強い。電力は、東日本大震災の時でも、3日後には通電していたという。また鉄塔は高層ビルより軽く、地震にも強い。地震に強く、倒壊したという話はないということだ。

つまり台風のような悪天候を伴う災害でなければ、ドローン配送は災害時でも使えるということだ。これは災害が多い日本としては、是非欲しいシステムの一つだ。

 
■物理ネットワークを持つということ
ちょっと話は変わるが、私はこの話を聞きながら東芝のことを思い浮かべてしまった。東芝は現在、いろいろな事業を切り出し、売りに出している。正直、復活は厳しいと思う。理由は、弱体化した、古いと言われながら日本の総合家電メーカーが生き残ってきたのは、いろいろな事業を合わせて総合することにより、強みを見い出してきたからだ。それは人資産も同じで、残った人に適正な人がいない場合もありえる。

ところが、東電は、倒産しなければならない状態になりながらも、ほぼそのままの状態で残っている。電力会社としての頭から尾までのビジネスを傘下に収めている上、物理的な電力ネットワークも残っている。それが新しいビジネスを起こす時に大きな強みとなっている。

今回は、この物理的な電力ネットワークをベースにしたビジネスプランでだが、これはビジネスを切り売りしなかったため、できたことだ。

送電線自体、電気を送る以外に、通信ネットワークとしても使え、そして物理的にドローンハイウェイとしても使える。こうなると送電線ビジネスを分割化したとは言え、傘下に残す東電は、東芝より圧倒的な強みを持つ。

東電は、福島の復興を先頭に立って支える義務がある。また事故を起こした福島の原子力発電所を、後日に憂いなきように確実に廃炉にする必要がある。補償金も膨大に上がるし、廃炉費用も膨大になる。ドローン・ハイウェイが実用化されると、かなりの金額が入って来て、それを福島のために使えるはずだ。

この構想を聞いた時、物理ネットワークを持っている者は強いと感じると同時に、切り出さなかったからこそ、お金を払える可能性が残ったとも思った。妙な気持ちだ。

2017年6月3日

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