思うこと

ハーモニーから考える 日欧のモノづくりの差
出張時、3時間で「視点」を変えよう! その3
〜WEDGE Infinityより再掲載〜


Made in Japanはスゴいと言いながらも、家電は海外メーカーに押されています。
例えば掃除機。キャニスター型は兎も角、スティック型掃除機はエレクトロラックス、ダイソン、ロボット掃除機はiRobotという海外メーカーの後塵を拝していると言ってもイイでしょう。
なぜでしょうか? IFA取材の後、骨休めと称して行った「ベルリン音楽祭 2015」で気付くことがありました。
■日本のオーケストラと海外のオーケストラ
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ベルリン音楽祭の看板


海外のオーケストラに比べ、正直な話、日本のオーケストラは感心することが少ないです。
あれだけ、海外の有名なコンクールで日本人が賞を取る時代になってもです。
理由は、音の作り方にあると思います。海外のオーケストラは、料理に例えるとスープです。スープはいろいろな素材を混ぜて作ります。が、出来上がった味は、複雑ながら、そのスープ独特の味が出ていると思います。

それに対し日本のオーケストラの音の作り方は、懐石料理です。
いろいろな小鉢が載っており、一つ一つが主張しながら、料理を時間的に組み立てていくのですが、味は全体を通して一つの味ではなく、小鉢毎の独立味の連なりです。

音楽の重要な要素「ハーモニー(和声)」は、いろいろな楽器の音が混じり合ったものを楽しむですから、先の表現だと同じです。

 
■ハーモニーの決め方とスティーヴ・ジョブズ
ハーモニーは、指揮者が決めます。演奏は楽団員ですが、方向性、ピッチ、等は指揮者が決めます。
指揮者は、音楽監督も務めることが多いですが、極めて特殊な職業といえます。
何せ、聴衆に聴いてもらう音楽を決める最高権力者ですから。このため、自分のカラーを徹底的に出します。
で、聴衆にアピール。支持を得るわけです。

こう書きながら、私は薄いスマホを作るために、スティーヴ・ジョブズが取った行動を思い出しました。
スマホの試作品を水槽に投げ込んだのです。当然、泡がでますよね。「まだ、隙間が残っている。薄くしろー!」ということです。結果できたのが、薄く、高性能なiPhone。

もし日本のメーカーでこれをやったら総スカンです。
「和をもって尊しとなす」国ですからね。
プロジェクト半ばまで来て、「君の気持ちは分かるんだが、こちらの意見も聞くのはどうか」と意見修正を図るわけです。
仕事の進め方としてはありなのですが、これではハーモニーは出ないのです。ハーモニーは、全員が同じ気持ち、同じ方向を目指すことで初めてできますので。

モノづくりも同じです。商品という結果が良ければイイわけで、仕事の進め方を売るのではないですから。

 
■海外製品にある「らしさ」
冒頭書きました掃除機をイメージしてみてください。サイクロン掃除機の「ダイソン」、スティック型掃除機の「エレクトロラックス」、ロボット掃除機ルンバの「iRobot」等、メーカーとカテゴリーを聞くだけでその製品の明確なイメージがわきます。

それは商品の魅力が出ているということですし、だからこそ、日本でも支持されるという言い方もできます。
これに比べると、日本製品はイメージがあやふやです。「和を尊ぶ」と多くの場合、船頭が多くなり、個性が埋没してしまうからです。ハーモニーの作り方と同じです。

オーケストラ団員が奏でる音を、一つの方向へ向かせるのが指揮者です。
指揮者は、自分の作りたい音を団員に提示し、ハーモニーを要請します。
それが人により異なる。これがオーケストラの、指揮者の個性に、「らしさ」になるわけです。

 
■商品開発の背骨はコンセプト
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ベルリン音楽祭が行われた
フィルハーモニー・ホール。
客席はブロック毎壁に仕切られる。
それでも音がイイのは設計の妙。


「らしさ」の基本は、「コンセプトと技術の融合」です。
先ほどの例で言うと、指揮者がコンセプト、オーケストラが技術です。ただメーカーには、指揮者はいません。指揮者に近い人は、創業者でしょうか? 創業者は「自分が作りたいモノがある」ために、会社を興すわけですから、やりたいこと、つまりコンセプトが明快なわけです。で、技術も多くの場合、自分が持っています。
だからぶれないわけです。

コンセプトが明確であると言うことは、最終商品が見えているということです。これはスゴく重要なことです。日本の中小企業はよく「技術はあるのに……」という言われ方をします。
加工業だとそれで良いと思います。メーカーは違います。作るなら、この商品コンセプトを明確にしなければなりません。そうでないと、技術者は戸惑うばかりです。

 
■欧州におけるハーモニーの厚み
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フィルハーモニーホールとボストン交響楽団。


さて、ベルリン音楽祭は、ベルリン・フィルハーモニー・オーケストラの本拠地、フィルハーモニー・ホールで開催されます。当日の演目はマーラーの交響曲第6番「悲劇的」。演奏はボストン交響楽団。指揮はアンドリス・ネルソンス。
ボストン交響楽団は、小澤征爾が、1973年〜2002年まで音楽監督を務めていましたから、ご存じの方も多いと思いますが、アメリカ・ビッグ5の1つで、弦に定評があります。

拍手に続き、演奏が始まります。今まで聴いたことのない、極めてしなやかな弦の音がしたと思うと、その中に全ての音が溶け込んでいくようです。ちょっと比類がありません。このハーモニーは指揮者、オーケストラにより奏でられますが、もう一つ、ホールの響きが加わります。

日本は、あれだけ箱物にお金をつぎ込みましたが、ホールの響きでイイのは少ないです。ちなみに、フィルハーモニー・ホールを模して作られたのがサントリーホールと言われていますが、やはりかなり違いますね。本場モノのスゴさを見せつけます。久しぶりに、音楽ではなく、音に酔いました。

 
■当たり前のことを深く考える
先日、ドイツのミーレ社の開発責任者と話す機会がありました。
ミーレは食洗機、洗濯機、そしてビルトイン、そして高価格帯(洗濯機で40万円クラスです)で有名なメーカーです。で、その秘訣を聞いてみました。

開発責任者も「どうしてでしょうかね?」と言っていましたが、彼を話の中で、「一番大変なのは、開発チーム全員同じ方向を向くことです。これができれば、社長の承認を得ることは難しくありません。」と聞いた時、思い当たりました。開発チームは三十数名いるそうですが、最終的に全員が合意できるまで徹底的に討論するというわけです。

欧米の人と仕事をした人はお分かりと思いますが、彼らは、唯々諾々と承知することはまずありません。明確な理論で納得してもらう必要があります。
また、英語を含め、ヨーロッパで使われる言葉は曖昧な表現が少ないですから、結論も明確です。要するに、コンセプトを徹底的に深掘り、そして商品化させるわけです。
商品を熟知している者がそれをするのですから、半端な議論で、収まらないでしょうね。
そして、そこから生み出されるハーモニーこそが、ミーレをミーレたらしめているのではないかと思います。

家電は、××できればイイというものではありません。一緒にいて、居心地いいかどうかは、スゴく重要です。
その良さは、ハーモニーからでるわけです。
日本の多くのメーカーが「らしくない」と言われる今、日本のメーカーに求められているのは、ハーモニーを奏でることだと、異国の地で思いました。

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フィルハーモニー・ホールから、歩いて5分の所にある、有名なビアホール「リンデンブロイ」。
ここで飲むと、3時間の遊学では終わらなくなるのでご注意!


注)この記事は、2015年11月22日に、WEDGE Infinityに投稿した記事を、WEDGE Infinity様のご厚意により、再掲載したモノです。

2015年12月6日

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