思うこと

2017 テレビ事情 01 有機ELテレビで見て取れる日本のモノ作りの弱さ(前編)


今年のIFA2017で、テレビの主役は2つ。1つは、技術の最先端。4K 有機ELテレビと、8Kの液晶テレビ。もう1つは、「HDR(High Dynamic Range)」と呼ばれる明るさの画質規格でした。IFAはベルリンで行われるため、入場者の多くはドイツ人。真面目な国民性だからかもしれませんが、それぞれの展示ブースで目を皿の様に大きく見開いて、見入っていました。ある種の熱さを感じました。

ただし、全メーカーのブース、すべてを熱い眼差しで見ているのかというと、それは違います。やはり、開発力、ブランド力が、重要になってきます。有機ELテレビで、人だかりしていたのは、LGエレクトロニクス(以下LG)、ソニー、パナソニックの3ブースでした。

 

■LGエレクトロニクス

現在、有機EL(OLED)テレビのパネルは全てのメーカーに、LGグループのLGディスプレイから供給されています。その意味では、有機ELテレビの盟主といえます。盟主が行うことは、「認知」と「方向性」を示すことですが、今回のLGの展示は、とても好感がもてるものでした。

OLEDで海中を映し出したところ。マンタが泳ぐ。
遠くに「LG OLED TV」の文字が見える。



人にモノごとを認知してもらうために必要なのは、「そのモノがもたらす新しい世界」のわかりやすい提示です。LGがブースに設けた有機ELをアピールするためのOLEDチューブは、人目を引いていました。チューブは4Kの有機ELパネルを、チューブ内側に貼り付けたモノです。水族館の水槽内チューブを想像してもらえれば間違えありません。水族館のチューブは、水と魚に覆われた中を通り抜けるという非日常空間を体験することができます。これを模したOLEDチューブは、もっと非日常です。水中はもちろん、宇宙も映し出します。画は高画質4Kなので、とてもリアルです。

宇宙(星雲)の描写。
本当は、星の方がベターなのだが、小さすぎて上手く写らなかった。



特に見事なのは宇宙。闇夜、3000mの高山山頂で見る感覚です。天の川さえ判然としない東京23区の夜に慣れた筆者には、全くの非日常空間です。インパクトも大きいです。来る人、来る人、スマホで撮影し、SNSにアップしていました、いかにも「今時の」らしい様子で、面白いです。

このチューブの体験を支えているのは、有機ELパネルが「曲げられる」こと、「軽量」なため壁に貼り付けやすいこと、さらに言うと、宇宙などは「黒色の描写に優れる」ためです。理解するには一つ一つ提示するのが分かりやすい。しかし、それがどの位の効果があるのかは実感しにくいです。こんな風に、天井まで使った展示で「こんな新しいことが出来る!」ことを示すのは重要です。

また壁掛け専用のモデルも展示してありました。ペットネームは「Wall Paper(壁紙)」。どんな商品でもイメージを喚起させるペットネームは重要です。認知もし易く、新しい感じもでてきます。

Wall Paper(壁紙)の名を持つ壁掛け専用モデルは、とにかく薄い。
黃矢印がドルビーアトモス搭載のオーディオユニット



さらに、LGは音質にも大きな提案をしています。それは「ドルビーアトモス」を採用したことです。映画で有名になり、耳に馴染んだ「サラウンド」と言う言葉ですが、これは本来、ユーザーを取り巻くようにスピーカーを配置、それぞれから別の音を出し、その合わさった音をユーザーが聞くよう設計されています。右から左、左から右へ移動するような音には絶大な効果を発揮します。私のサラウンド初体験は、コッポラ監督の「地獄の黙示録」。ヘリコプターが「ワルキューレの騎行」をBGMに縦横無尽に飛び回る超有名なシーンです。音場再現力も上がるサラウンドはその後、AVシーンを席巻することになります。

サラウンドシステムの欠点は、リアル感をますためには、スピーカーを多く必要とすることです。NHKが8K映像を技研公開したときは、20個以上のスピーカーでサラウンドを組んでいました。とても家に入れることができないレベルでした。

そこで考え出されたのが、ドルビーアトモス(以下DA)です。サラウンドだと、複数のスピーカーから出される音が、自然にまとまることにより、1つの音場を形成します。このため、スピーカーの数、設定位置がすごく重要になります。DAは、それと違い、音に時間的なベクトルを与えることにより、音場を形成する方法です。つまり結果から、逆算してそうなる様に音をだしてやるのだ。音の時間差攻撃みたいなものです。こうするとスピーカーが前にある場合でも、後ろから音が出たように聞こえます。もうお分かりのこととと思いますが、スピーカーはテレビと違う位置にあってもいいし、スピーカーの数が少なくても用が足ります。

LGは有機ELテレビ に、このドルビーアトモスを採用しています。LGは、液晶とは画も音も違う技術を用い、設定の自由度の高いテレビを提案しているということです。

 

■ソニーとパナソニック

ソニーの有機ELテレビ:A1シリーズ、パナソニックの有機ELテレビ:EZ1000シリーズ。この2つのテレビの画質は素晴らしいです。これは画質コントロール回路で、差別化を図ろうと考えている両メーカーの考えが成功したことを示しています。双方とも暗部の描写は本当に、実に美しい。

展示されていた、ソニーのA1。



本当にキレイ。文句の付けようがない。



ソニーグループのソニーピクチャーは、アメコミ映画で有名。中でもバットマンは黒のコスチュームで夜出没します。黒の描写が適確でないと、映画としてなり立ちません。またパナソニックはハリウッドに研究所を持っており、いろいろな監督と理想の画質を求めています。画家も自分の表現のために、新しい色を作り出しますが、映画も同じです。特にCGが当たり前になった今、撮れた画ではなく、作り込んだ画を観てもらうのに高画質テレビは不可欠とも言えます。

パナソニックの展示。こちらも黑がキレイ。



パナソニック・ブースは画質比較のため、暗室を別に設けた。長蛇の列ができていた。



そして音。ソニーのアプローチはユニーク。テレビ表面を振動させて音を出します。そうすると画像が振動しマズイのではと考える人もいるかもしれません。しかし、それが大丈夫なのです。

通常は音を出すのはスピーカーを使います。コーン紙という特殊な紙を振動させ音を出します。この時、音量は音を伝搬する空気の体積で決まります。つまり「音量=スピーカーの振動する面積×振動幅」だ。この基本は、テレビ画面をスピーカーとして使う場合も同様です。しかし、スピーカーの何倍もの面積があるテレビの画面の場合、ごくごく小さな振動幅で済むというわけだ。スピードも速く人間の眼で捕らえられないレベルです。ソニーのA1シリーズは凝ったことに、画面を2分割駆動させています。喋る人の位置に合わせて振動する位置を変えるのです。音の定位もバッチリというわけです。



実はこの原理は、かなり前から知られています。IFAでも中国のテレビメーカー Skyworth社のブースで展示されていました(上動画がその展示)。しかしソニーが使うまで、テレビで使われることはほとんどなかったことも事実です。理由は、ブラウン管も、液晶テレビも、表面がガラスだからだと思われます。ガラスは振動させにくいし、音も硬いです。有機ELパネルの場合、表面は樹脂。有機ELパネルは、液晶パネルに比べ、工夫できる余地が多いのです。

 

ソニーがユニークなら、パナソニックはオーソドックスです。液晶テレビ同様に、小型のスピーカーが目立たないように仕込まれています。ポイントは『テクニクス・チューン』。テクニクスはパナソニックのオーディオブランド。2016年からベルリン・フィルハーモニー管弦楽団と技術提携。ベルリン・フィルのライブ中継、「デジタル・コンサート・ホール」のサポートを行っています。今年の「デジタル・コンサート・ホール」は4K、HDRの映像配信が話題なのですが、世界で1、2を争うこの楽団の配信の音サポートはテクニクスの役割。実際、平面スピーカーとは思えない音でした。

ベルリンフィルの4K デジタル・コンサート・ホールの告知 @ パナソニック・ブース



 

To be continued. 後編に続く

 

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