新製品

マルチエアコンって何だ?
ダイキン UXシリーズの戦略


今のエアコンは語るにちょっと面倒な製品です。
家電の中でもかなりやり尽くした感があるからです。
太鼓腹を尽きだしたような各社のエアコン群を見ると、進化し尽くした恐竜 T-REX、トリケラトプスを見る思いでもあります。
で、先日発表されたダイキンのUXシリーズですが、実に薄い。

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左)新発売されたUXシリーズ
右)ダイキンのフラッグシップ「うるさら7」、かなり違う!


最近のエアコンではお目にかかれなかった薄さです。
だからといって能力的に劣っているかというとそうではありません。
ダイキンのフラッグシップ「うるさら7」のような加湿機能こそありませんが、省エネ性能を含め十分なレベルです。

これはUXシリーズが、「マルチエアコン」だからこそできた技なのです。

 
■マルチエアコンって何?

マルチエアコンというのは、複数の室内機を1台の室外機で動かすエアコンシステムのことです。
今、実はエアコンは、3台強/家の普及を示しています。
そのためですかね、一軒家の周りには必ず数台の室外機があります。
十分なスペースがあればイイのですが、そうでない場合も多く、かなり汚く見えることもあります。

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三段積みの室外機 5台。集合住宅で
結構見られる風景。夏は近寄りたくない!


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マルチエアコン用の室外機(5台対応型)。一回り大きいだけで、
通常の室外機とほとんど変わらない。


ヨーロッパでは、美観を大事にします。
ゴミ屋敷などは論外、ドイツなどは窓が汚いだけで、周りの奥様から苦情がくるそうです。

日本も昔は家の前とか掃除していたのですが、何時の頃からか、外掃除をしなくなりましたね。
天才バカボンに出てくる「レレレのおじさん」は、今や絶滅危惧人でしょう。

それは置いておくとして、そのヨーロッパで重宝されているのが、マルチエアコンです。
室外機が少ない=隠しやすい。
で、採用と言うわけです。

 
■スペース以外のメリット1 部屋を変えてもすぐ暖かい風が・・・
それ以外にも、幾つかメリットがあります。
例えば、部屋を移動したとき。
特に暖房時に感じると思いますが、スイッチ入れても温風が出るまでに時間が掛かります。
これは室外機が暖まっていないからですね。
時間がかかる分けです。ちなみに立ち上がりは電気代も掛かります。

マルチエアコンの場合は、部屋を変わっても同じ室外機。
それまで使っていたわけですので、スィッチを入れた瞬間から、温かい風が出てきます。
これは大いにプラスです。

 
■スペース以外のメリット2 床暖房とマッチング
また、面白いのは、熱交換システムであればよく、必ずしもエアコンと組み合わせなくてもイイと言うことです。
今回の取材は、HVAC&R展(第39回冷凍・空調・暖房展)で行ったのですが、ダイキンのブースには、床暖房との組合せで展示されていました。
暖房はエアコンの泣き所です。
エアコンは熱交換システムですから、他の暖房器具に比べてランニングコストが最も安いのですが、輻射ではないのです。
輻射というのは、暖かいモノの側にいると段々暖まってくる状態で、人間これが一番気持ちイイ。
エアコンが得意の風を当ててというのは、気持ちがよくないのです。

このため、今のエアコンの多くは、暖かい風を床に当てて床を暖めて、その輻射熱を感じるように設計されています。

「ならば」ということで、ダイキンの提案は、エアコンと床暖の併用です。
暖め初めはエアコンメイン。
空気は水に比べて暖まりやすいですからね。
そして水が温まり、床暖が効き始めたら徐々に変わると言うモノ。

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壁掛けエアコンだけでなく、お湯による床暖も
ヒートポンプで安く使える。


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床暖房ユニット。目立たない場所に設置。


メリットはいろいろ。
一番大きいのは、やはりランニングコストが安いということですね。
これは「ヒートポンプ」様々。
やはり周りの温度を上手く利用するシステムはいいです。

 
え、暖房系は二つも要らないって・・・。
でも考えて見てください。
エアコンは冷房。そして暖房として床暖房。
よくあるパターンです。

プラスなのは、安価。暖房費に唸りながら使う必要はありません。

 
■スペース以外のメリット3 室内機を大サポート
UXシリーズの薄さとも密に関係しますが、次のようなことも可能です。

まず、マルチエアコンの場合、室外機が一回り大きいです。
それはそうでしょうね。
能力的には、数台分の対応をしなければ、なりませんので。

別の言い方をすると、熱交換に余裕があるのだそうです。
そう室内の熱交換で足らない部分を、サポートしてやることが可能だとのこと。
これがUXシリーズの薄さの秘密だそうです。

今のエアコンは、室外機をなるべく小さくします。
設置も楽ですから。
このため、室内機も室外機もギュウギュウに詰め込まれています。
その結果が太鼓腹なのです。

その室内機の熱交換効率の一部を、室外機で肩代わりしてやるのです。

最近気になってしようがない太鼓腹。
これから脱却できるだけでも、私は嬉しいですね。

 
■部屋に溶け込むデザイン
家電のデザインは大きく二通りに分かれます。
「目立ち型」と「溶け込み型」。

目立ち型は、ちょっと使いの時に多用されます。
掃除機などは典型例ですね。
掃除機は、「やるぞ!掃除するぞ!」と思って使用しますからね。
ポップな感じのデザインが嬉しいですね。

では、溶け込み型が良いのは、どんなものか?
システム系の家電です。
24時間使われる家電です。

必要なのだけ、意識したくないのがシステムです。
例えば、空気の入れ換えをする換気システム。
無彩色な色で、なるべく目立たせない。
しかし、生活では重要なシステムです。

例えば黄色の換気システムはどうでしょうか?
ちょっと飽きるかも知れませんね。

今回のUXシリーズは、部屋に溶け込むデザイン。
だから薄型なのです。
薄さが目立ちにつながるのは、今のエアコンの奥行きが大きくなり過ぎたためで、本来の意味を考えると皮肉なような気もします。

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静止時。風をイメージした曲面パネルが美しい。


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ヨーロッパでは「ダイキン・アイ」と呼ばれるセンサー部。


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運転時は、パネルが動き、送風口が現れる。ひたすら優雅。
注)上2つの写真は色:白。この写真のみ色:シルバー。


 
■ターゲットは新築
今のエアコンは基本、買い替え需要です。
壊れたら買い替え、という感じです。
その時により目玉商品は違うので、最後、いろいろなメーカーのエアコンになっている家庭が多いのではないでしょうか?

日本では、まだ馴染みの少ないマルチエアコンの販売は、難易度も高そうです。
そうですよね。同じ日に壊れることは少ないと思います。

このため、ダイキンは、まず新築の家にターゲットを絞るそうです。
家を建てた人ならお分かりだと思いますが、照明はほぼ一社でまとめますよね。
照明メーカーのラインナップは似ているのは、他社にあるモノは全て持っていないと、新築の顧客を取り込めないからです。

一社でまとめるメリットはいろいろあります。
まず、コントロールが楽です。
トラブル時も、一社で済みます。

空調を「システム」と考えると、マルチエアコンはあるべき姿の一つとも言えます。
コストの関係もあり、右から左に変わることはないと思いますが、マルチエアコンはじわじわ浸透するのではないかと思います。

 
■ビルトインエアコンと壁掛けエアコン
空調システムという話が出たことで、最後、ダイキンの人に確認させて頂きました。
それは、ビルトインエアコン(ビルでよく見かけるタイプです)と壁掛けエアコン、どちらが多機能なのかということです。

モノによってもいろいろと変わりますが、基本壁掛け型の方が多機能だそうです。
一番の違いは「風」です。

先ほど暖房の時、風はダメと書きましたが、逆もまた真なり。
冷房時は、風はいろいろ助けてくれます。
直接当てると、室温より3℃位体感温度を下げることも可能です。

UXシリーズも、風にはかなりこだわった作りです。

 
■コメント
いろいろな意味で今年はエアコンの節目となる年かも知れません。
ここに上げたダイキンの他に三菱も薄型のFLシリーズを出しています。
また日立も奥行きは同じですが、高さを低くするように努めています。

省エネはトップランナー制があり、この技術の詰めはまだまだ続くのですが、今後のエアコンはそれだけでなく、システムとして、より生活を楽しめる方向で進化していくのではと感じています。

 
商品のより詳しい情報は、ダイキンのホームページにてご確認ください。
http://www.daikin.co.jp/index.html


2016年2月26日

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